風景からのまちづくりについて
2006/10/10記
 秋らしい写真を撮ろうと考えて、ふと木更津周辺で秋らしい風景はどこに有るかを考えてみた。この地域の稲刈りは8月に終わってしまうし、紅葉は11月末にまで遅れてしまう。干潟越しに見る富士山の雪景色も冬のものだから馬来田のコスモスロードを別にすれば秋の風景は意外に貧弱なものだと気づいた。
 秋の風景を彩るために矢那川に植えた彼岸花は繁殖運動の途中で、まだ一部の群生が見られている程度である。暑い夏にも冷夏の年にもきちんと秋分の日前後に真っ赤な花を咲かすこの花は毒が有るとか死を連想させるとかで不人気な面も有るが、日本の原風景の一つとして大切にしていきたいものだと思う。

 日本の風景を特徴づけるのは春の桜であろう。その季節になると多くの名勝に人が溢れ、桜前線と共に北上をする。奈良の吉野山、岩手の北上展勝地、弘前城など、いま多くの人を集めている桜は何十年か前に地域の人が植え、育てたものが殆どである。
 桜以外の花で最近有名になってきた秩父の羊山公園の芝桜も地元の有志による活動から始まったようだ。西武鉄道による広告効果で急激に成長した面も有るが、最近は観光客を大勢集めるメジャーな場所になっている。「いま、会いにいきます」のロケ地になった山梨県北杜市のひまわり畑も急に有名になった所である。マザー牧場の菜の花のように自社の敷地に資本投下するのでなくても強くその街の印象となる花々を育てることは可能である。

 すばらしい風景で人気が出た土地に北海道の美瑛・美馬牛が有る。写真家前田真三の活躍で人々の知る所となり、1982年頃はただの田舎町に過ぎなかったところがドラマやCMで繰り返し放映されることで大量の観光客が訪れるようになった。その風景は昔から変わりなかったので有るが、一人の写真家によって注目を浴びた例である。もっともラベンダーを北の大地で育てることに成功した多くの農家の努力も褒め称えるべきでは有る。

 都市では昔からの「小京都」の町並みはもとより、復活した小樽運河や整備された函館レンガ街、テーマパークとして作られたハウステンボスなどは異国情緒で人気を集め、近代都市の新宿副都心、六本木ヒルズ、汐留、横浜MM21、福岡のシーサイドももち等はビジネスと観光の両面で人気を集めている。このような歴史的な町並みも無く、開発の資金も無いところでありながら「昭和」に想いを巡らせる豊後高田などのような町にも人気が出ている。伊勢の御陰横丁は土産物屋が江戸の町並みのイメージを復活させたことで急激に人気が上がった所である。

 このような多くの成功例が有るにもかかわらず、一般に日本では景観に対する意識は低い。この地域でも、例えば久留里はより一層の江戸風の町並みを目指し、木更津西口では昭和への回帰を行い、小櫃川河口では電柱を無くし屋敷森と干潟の農漁村の風景を復元させるなどすると多くの人が集い、それが住民にとっての故郷の誇り、郷土愛につながっていくと思うのである。
 しかし、景観より個人の財産権(自分の土地には好きなような建物を建てる権利?)が優先される環境ではなかなか上手くは行かないものだ。やはり強いリーダーが求められる時代なのかもしれない。