橋梁の維持管理を考える
2008/08/11記
 私が大学を出て日本道路公団に勤め、3ヶ月の研修の後に配属されたのが中国自動車道の吹田JCTから滝野社ICまでを管理する西宮北管理事務所であった。昭和61年の夏であり、当時は舞鶴自動車道の接続や3車線拡幅工事なども平行して行われている時であった。
 当該区間は大阪万博に合わせて急ピッチで建設した区間で、中国吹田ICの目前には太陽の塔が聳えていた。開通から16年を経過した頃だったが、激しい交通量で各所に痛みが目立ち、私の担当した業務も既存構造物の補強や改良の工事であった。
 その頃、上司から言われ続けたのが『使用後の維持管理が出来るだけ容易な設計をする技術者になれ』と言うことであったが、高速道路を設計する技術者でなく市議会議員になってしまった。
 
 鋼鉄で出来た橋の塗替工事も担当させていただいた。完成後20年も経っていないのに既に2回目の塗替だった。そのように頻度を高く維持管理していても塗装が剥がれたり錆が出ている所が多くあった。ベテランの技術者がパートナーに付いて、新人の私に色々教えてくれていたのだが『土木構造物は出来上がった時が最高の品質で、後は悪くなるだけだから、それをどの様に引き延ばすのか考えることが重要』と教えられて来た。
 設計技術者から脇道にそれているが、延命を考える事は今でも出来る立場に居るのかな、と思う。
 
 産業や経済の大動脈であり通行料金を頂きながら管理する高速道路と、地方自治体が管理する市道の橋では、使用頻度も重要度も大きく異なり管理レベルにも大きな差が出ることは当然である。
 しかし、延命は定期的な診断と適切な対応が必要だと言う概要は一緒である。
 
 診断の重要さを伝える事例が昨年発生した。
 6月20日に三重県内の国道23号線の木曽川大橋でトラス橋の鋼材が破断しているのが発見された。1963年完成だから44年で破損したことになる。他の部材を詳しく調べると腐食している部材は他にも見つかった。
 それを受けて国土交通省は全国のトラス橋を再点検させたところ8月31日には秋田県内の国道7号線にある本庄大橋でも調査のため周辺のコンクリートを取り壊したら鋼材が破断してしまった。同様に充分な腐食が進んでいたのである。こちらは66年の完成から41年後の事であった。
 これらは幸い事故には至らなかったが大規模な改修工事を行うことになってしまった。せめて腐食が少ない内に気付いていれば防錆処置などで安価に延命が計れた事は明かである。
 
 木更津市の管理する橋梁の中で橋長20mの鋼製の橋を台帳から拾い出してみると下表の17橋である。 
No 名称 交差物 架設年次 構造形式 橋長(m)
1 浜ケ谷橋 海面 1969 H合成桁 23.0
2 富来田橋 七曲川 1969 トラス 51.0
3 桜井大橋 烏田川 1970 H合成桁 23.0
4 中根橋 小櫃川 1970 H合成桁 150.0
5 白山橋 矢那川 1972 T桁 25.8
6 太請橋 矢那川 1972 I桁 27.0
7 本郷橋 小櫃川 1972 I桁 38.0
8 今関新橋 小櫃川 1972 H合成桁 59.4
9 上根岸橋 小櫃川 1972 H桁 71.4
10 椿橋 小櫃川 1972 H合成桁 113.0
11 中郷大橋 小櫃川 1972 H合成桁 125.4
12 大正橋 矢那川 1974 H合成桁 23.1
13 原田橋 矢那川 1976 H桁 24.5
14 大清水橋 矢那川 1977 H桁 23.5
15 弁慶橋 烏田川 1978 H桁 23.0
16 高根橋 烏田川 1983 H合成桁 23.5
17 築地橋 海面 1986 I桁 33.2
 構造型式が破断した2つの国道の橋と同じトラス型式は富来田橋1つしかない。さらに比較するとトラス部材がコンクリートで巻かれていないので、境界面で腐食が進んで破断した前記の橋とは構造的に異なるのでその意味では心配はない。他のH桁やI桁は比較的安定した型式なので破局的な破壊には成りにくい。ただ、どの型式でも鋼材が錆びると弱体化するという点は同じである。
 
 担当課に聞いてみると、過去に目視調査で劣化が認められたものは予算を獲得して塗り替えも行っているという事であった。しかし厳しい予算削減を伴う現在の総合3カ年計画の中では、物事が可能な限り先送りになっていく傾向である。
 先送りにしたことで、却って高く付くことがないのか、さらには健全な機能を維持し続けられるのか、そのような点を技術系議員として考えて行かねばならないな、と『太陽の塔(森見登美彦著)』を読みながら、その頃を思い出しつつ考えてしまった。
 
 ※8月13日に写真を加え、若干加筆した