Is値という概念に思う
2008/08/27記
 9月定例議会で学校耐震の問題を質問する予定であるが、気分的にどうも整理できないものが「Is値」という概念である。
 
 Is値とはSeismic Index of Structureの事で日本語で言うと構造耐震指標となるらしい(直訳すると「地震時の構造の指数」という感じになる)。計算式としては次のようになる。
 
 Is = Eo × Sd × T
   Eo ・・・保有性能基本指数
   Eo = C × F
   C ・・・強度の指数
   F ・・・粘り強さの指数
   Sd ・・・形状指数(建物の非整形を考慮する指数)
   T ・・・経年指数(経年劣化を考慮する指数)
 
 このように全て指数で求められる値なので単位は無い。ただ、算定のためには実際の建物から実験コアを抜いて強度試験を行うなど、現状を把握する必要があり、机上の数値では無い。
 
 姉歯建築設計事務所による構造計算書偽造の問題の時に用いられた指標は安全率である。これは構造物を構成している部材(鉄骨・鉄筋・コンクリート等)に生じる応力が基準の範囲に有るかどうかという事である。
 設計に対して施工誤差、想定荷重と実状の差、施工部材の品質の不均質、経年変化による品質の低下などの不確定要素を考えて、部材が耐えきれる力の限界で考えるのではなく、余裕を見ましょうというのが安全率の考え方である。
 
 安全率を全く持たない建物は限界の力が加わったときに破壊され、例えば3階の柱の鉄筋が降伏点を超えて塑性破壊を生じる(力が掛かりすぎて鉄筋がビロ〜ンと伸びきって壊れる)というように、構造計算でどの様に破壊されるか求めることが出来る。
 
 それに比べてIs値というのは建物の総合的な評価であり、いわばレッテルを貼っているようなものであり、実際の破壊のシステムは関係なく、壊れそうか否かという程度を示す値なのである。
 多くの実験や理論でそれぞれの指数を求めていると推察できるから、当然根拠の無い値ではないだろうが、構造力学を学んできた私のような人間には気分的に整理できない。
 
 既存の建物では工事関係書類が失われている場合が多く、構造計算に入力する要素を把握しきれないのから構造上の安全率にしなかったのか、それとも構造計算にコストが掛かるから簡便措置としてのIs値なのか、この概念を導入した背景や思想が理解できないので市役所に問い合わせたが、腑に落ちる説明ではない。
 それどころか役所の技術者の中にも『地盤の評価が行われていない』とか『Is値0.7でも安全であると保障できない』など、この指数に対する戸惑いの声も聞こえてくるのである。
 
 現在全国的に展開されている耐震補強工事であるが、厳密に構造計算を行うと補強が必要ない物件も多いのではないだろうか、そのような疑問を持ちながら私も自治体も国の法律に従っているのである。