障害者福祉制度に悩む
2008/10/06記
 本日の朝日新聞朝刊の1面に障害者団体を名目に郵送費を不当に安くしていた業者の記事が掲載されていた。
 具体的には『大手印刷・通販会社「ウイルコ」(石川県白山市、東証2部)が、心身障害者団体が定期刊行物を郵送する際に格安の料金が適用される「低料第3種郵便物」制度を悪用し、約4年間にわたって化粧品や健康補助食品などのダイレクトメール(DM)広告を大量に郵送していたことが5日、朝日新聞の調べでわかった。取材に対して事実関係を認めた同社は「コンプライアンス(法令順守)上、問題があった。今後は、この制度を使ったDMは出さない」としている。(朝日新聞のHPより引用)』というものである。
 
 障害を負った人達が抱えてしまったハンデを別の形で軽くするため、公的機関には様々な支援措置が設けられている。例えば有料道路の通行料金でも障害者割引があり『有料道路では、「身体障がい者の方が自ら運転する」または「重度の身体障がい者の方もしくは重度の知的障がい者の方が同乗し、障がい者ご本人以外の方が運転する場合」に、事前に登録された自動車1台に対して、割引率50%以下の障害者割引を実施しております。この割引制度は、通勤、通学、通院などの日常生活において、有料道路をご利用される障がい者の方に対して、自立と社会経済活動への参加を支援するために設けられています。 (JHのHPより引用)』というものである。
 
 これらの制度により便益を受けている障害者も多く存在している事は解るが、その悪用を計る人達は後を絶たない。さらには医療費助成などの公金を直接入手する事例も多く見られる。
 最近で有名な事件は次の例である。『虚偽の診断書で聴覚障害の身体障害者手帳が不正取得されたとみられる事件で、札幌市の前田幸c医師(73)の診断で取得した手帳で重度心身障害者医療費の助成を受けた受給者は768人で、平成11年度以降の総額は約2億5000万円に上ることが27日、北海道の調べで分かった。道によると、重度心身障害者医療費助成は身体障害者手帳1、2級など重度の障害者に、医療費の自己負担分の全額または一部を都道府県や市町村が補助する制度。道が集計した結果、前田医師の診断を受けて手帳を取得した840人のうち、9割以上が助成を受けていた。事件が表面化した後の手帳の返還者も9割を超えており、道は「故意による不正や不正期間が確認できれば、助成金の返還請求もあり得る」としている。(産経新聞のHPより引用)』。これ以外にも滝川市のタクシー代の不正請求などのように福祉を食い物にする一部の存在が報道されているが、軽微な不正を数えれば膨大な数に上ることが予想される。
 
 不正をしたものが得をする、という社会では公平・正義・倫理という感覚が失われ、良識を持って生きてきた人達も自分だけが損をしているという気持ちの中で、あるものは社会に対して不信を抱き、あるものは自ら不正に手を染めていくことになる。
 その不正を生じさせない防波堤が障害者福祉を受け止める窓口業務であるが、厳しくすると障害者に冷たいと言われるし、不正を企むような人達からの言葉の暴力などの圧力とも戦うことになる。
 窓口業務の人間力に頼ることも重要ではあるが、窓口経費が増えてしまうと肝心の支援に回す金額が不足する。具体的には平成20年度の木更津市の障害者福祉費は14億円弱であるが、人件費が1億円強必要となっている。
 
 障害者福祉制度と一括りに言って障害の内容や福祉対象も多岐に渡るので、痒いところに手が届くような多くのメニューが必要となる。しかし、複雑多岐に渡る項目は山際に立つ老舗の温泉旅館が増築を重ねたようなもので、一見して全体が解るような生やさしい代物ではない。不正が生じにくいような制度設計は何とかならないものかと考えようとしても立ちつくしてしまう。多分、日本中で行政に携わる多くの人々が同じような気持ちを抱えているのだろう。