デマンドシステムを検討する
2009/01/31記
 活動記録に書いたように、1月21日に広島県世羅町に行ってデマンド交通システムの研修を行ってきた。この件について具体的な情報を求められたので、整理しながらここにアップする。
 活動記録と重複する部分も多くなるが容赦いただきたい。
 
 デマンド交通システムとは、福島大学の奥山教授が提唱し、平成14年1月から福島県小高町でNTT東日本と伴に実証事件を経て開始された公共交通システムで、電話で予約すると乗り合いタクシーが自宅から目的地まで送迎するサービスである。
 需要(デマンド)に対応しているのでこの様に呼ばれている。全国の導入機関から成る協議会も存在し、ホームページも立ち上げているので詳細はこちらを見ていただきたい。
 
 デマンド交通システムのメリットは次の通りである。
1.住民にとって
 今いる所から行きたい所へドアtoドアで移動できて便利
 タクシー利用に比べ安価な料金で利用可能
2.自治体にとって
 バス運行に補助金を出すより財政支出が少なくなる事が多い
 高度な住民サービスを提供できる
 高齢者の健康増進や生き甲斐づくりを進める
3.タクシー会社にとって
 固定収入が増え経営を安定化できる
 保有車両や運転手の有効活用が出来る
 
 上記は協議会のホームページにも同様の事が書いてあるが、一方デメリットを私なりに考えてみると次の通りである。
1.住民にとって
 乗り合いの経路によって到着時間が変動し定時制が低い
 路線バスに比べ短距離では割高になる
2.自治体にとって
 大量輸送に対応した場合は運行台数が増えて歳出が増える
 システム移行時に混乱や不満が生じる可能性がある
3.タクシー会社にとって
 本来タクシーを利用する客がデマンドシステムに奪われる
 担当地区によって走行距離などに差が生じ不公平感が出る
4.バス会社にとって
 路線の廃止に伴い収入が減り、運転手や車両に余剰を生じる。
 
 
 さて世羅町はどう進めたのか、聞き取った状況を記載する。
 世羅町では隣接する旧大和町(現在は三原市の一部)で平成15年12月に導入した実績を知る町民も多く居たと思われる中で、2年弱の準備期間を経て導入している。主な流れを抜粋すると次の通りである。
 H16.12.07 大和町に世羅町職員が研修に行く
 H17.03.25 商工会に事業主体の依頼に伺う
 H17.04.20 NTT西日本とソフト開発の業務委託契約
 H17.04.22 地域交通システム検討委員会(以降6回開催)
 H17.06.02 アンケートの実施
 H17.10.26 バス会社に今後の取扱方針を説明
 H17.11.25 町と商工会とタクシーで打合会(以降4回開催)
 H18.02,16 中国運輸支局との協議(後日県とも協議)
 H18.05.09 デマンド交通運営協議会設立
 H18.05.22 デマンド交通運行委員会(以降随時開催)
 H18.07.24 利用説明会(27会場)
 H18.08,09 中国運輸局長よりタクシー会社が乗合事業認可
 H18.09.01 デマンドシステム運行開始
 H18.09.30 10の路線バスと福祉バスの運行廃止
 
 このように住民や利害関係者の意見を調整しながら事業は進められ、理解を深めていった。なお、利用者は事前登録制(無料)で、利用券も事前購入とするなど、不特定多数の利用が行えないようにしている事も無用な混乱の防止にはなっているだろう。ちなみに利用券はエリア間移動の例外はあるが基本的には1回300円である。
 
 世羅町では他の先行事例の多くの事例と同様に、運行は弾力的な運用が出来るよう商工会に委託している。商工会は自治体の補助金と利用券の売上を元に、タクシ−会社への委託料の支出、予約センターの維持、予約システムの設備管理、事務経理等を行っている。ちなみに平成20年度の全体予算は約4千万円弱で、自治体の補助金は27百万円である。
 H20年10月の利用者は3557人であり、運航日は20日であったから1日あたり延べ178人の利用があったことになる。年間を通じて同じ利用者だとすると1利用あたり自治体の補助額は633円ということになる。
 廃止したバスの補助金等には約45百万円を投じながら利用者は少なかったという話であるので、遙かに有効で、効率的な予算執行であると言えよう。
 
 タクシー会社は客を奪われているという感覚は有るようで、多くの客を乗せてもらうモチベーションを高めるため委託料への上乗せとして一人載せる毎に50円加算している(金額は見直し中)。
 運行は平日の8時から17時までで、予約センターは7時半から16時まで受け付けている。世羅町では利用者の86%が70歳以上であるが若い世代の利用も若干は有る。日中にデマンドで街に出た人が帰宅には普通のタクシーを利用する可能性を考えると、タクシー会社にとっても悪い話では無いようだと、個人的には思う。
 ちなみに現在はジャンボタクシー4台と小型タクシー3台で運行を行っており、小型タクシーのうちの2台は午前中のみ(延長有)の運行を4社で実施している。
 
 
 さて、前段が長くなったが木更津での適用検討をしてみたい。
 世羅町は木更津市の1/10程度の人口密度で、全てのバス路線が補助対象であるのに対し、木更津では清見台循環路線などのように比較的乗客の多い路線もあり、全てを転換すると乗合タクシーでは通勤通学時には必要となる台数が膨大になると予想される。
 世羅町でも大量輸送が前提となるスクールバスは引き続き補助を行い存続させている。また、前にも書いたが世羅町の負担額は27百万円であり、単純に6倍以上の人口に比例すると計算すると木更津市の負担金は162百万円で、現在のバス負担金より1億円以上高くなる。大量交通に対応させるならバスが安価である事は間違えない。
 交通弱者対策としてデマンドを考えるので有れば、電車や高速バスに接続する通勤者の利用時間帯は在来通りにバスで大量輸送を行い、デマンド開始時間を9時からとするなどの運用が妥当かもしれない。つまり大規模団地との接続路線のバスについては運行を続けることにするのが望ましい。
 
 世羅町は中心部も旧世羅西町と世羅・甲山地区の2箇所に別れていてもコンパクトにまとまっている。さらには隣接する都市とは山で隔てられているという状況であった。木更津のバス路線を考えると袖ケ浦市や君津市に及ぶものも多く、四市広域で検討する事の方が効果が大きいと考える。ただ広域を一体管理とすると走行距離が長く成りすぎるのでエリア制を設けることが望まれる。この場合、木更津市内でも畑沢南地区のように君津駅に出た方が近い地区の扱いなどが課題となるだろう。
 
 世羅町も278kuという広域自治体なので世羅西を別エリアとして運営していた。エリアを跨いだ移動は中心市街に行く場合を除き、倍額の600円で運行していた。
 四市で合同運用とした場合、エリア間の移動手段はJR久留里線や長距離バスを利用すると考えるのが現実的だ。特に長距離バス(例えば清和方面や富津岬方面など)は公共性の観点からも路線バスとして残す必要があるだろう。
 また木更津市内完結の路線でも、不特定多数の利用者が多いアカデミア線は事前登録制には相応しくないので運行を継続するのが望ましいだろう。
 
 世羅町の利用実態を見ると行きは病院に出て帰りは商業施設から乗る例が多いようだ。その間は歩いても苦にならない距離であった。一方、木更津においては君津中央病院から市街地が遠く、今後営業を予定している築地の商業施設も病院、市街地伴に歩く距離と考えにくい。
 その間にデマンドを利用されると必要以上に需要が多くなる事が考えられるし、1日3回利用に成ることも考えると高齢者には負担が大きいと思われる。
 そこで、デマンドを連結する手段として、日中は朝夕の通勤バスを市内循環路線として主要施設間の連絡バスに利用する事を検討するべきであろう。可能で有れば百円のワンコインで採算が成立することが理想だが、補助金と採算性を比較して慎重に決定すべきであろう。
 
 デマンドを導入すれば請西南や羽鳥野のようにバス路線が無い新興住宅地の住民も事前登録すればドアtoドアで公共交通が来るようになるので、新たな路線をどう設定するかとか採算が確保できるか等の心配をしなくて済むようになる。現在のバス路線問題の抜本解決になるメリットはあると考える。
 
 
 今年の当初予算で45百万円も支出したバス補助金が来年度には6千万円を越えると噂に聞く。世羅町の事例のように検討から実施まで2年近い歳月が必要であるから、一刻も早く問題点を整理して、速度を上げて取り組むべき課題と考えるところである。