公契約条例を考える | |||
2010/03/11記 | |||
今議会に「公契約条例の制定を求める陳情書」が提出された。契約に関することなので総務常任委員会に付託されたが、詳細に迫る議論は行われなかった。同時に傍聴していた斉藤高根議員と『積算したことが無い人にはピンと来ないのではないかな』と話していたが、ここで少し自分なりの考えも記載したい。 公契約条例は野田市で最初に制定されたもので、公共が発注する労務者の賃金を補償する制度を設けることで低賃金労働を防止することや、適正に賃金を受け取る権利を保障する制度を定めた条例であり、陳情者によると全国で7百を越える自治体がこの様な誓願を採択しているという事である。 野田市公契約条例は野田市のHPを参照してもらいたい。 ダンピング受注による低価格競争が進んでいることは良く知っているし、大きな現場では元請け、下請け、第二次下請け、第三次下請けと複雑な契約構造となっている上に、一人親方の様な職人も多く、極めて不安定な労働状況に置かれている人が居る。逆に言えば大きな現場を受注するゼネコンは、殆ど商社化しており、如何に安価で良質な下請けを確保するかが肝心な部分に成っている状態である。 作業員の多くは日当制であるので、雨が続くと稼ぎに成らない一方で、工程に追われてくると屋外の仮設照明の中で長時間残業する事もある。一時は労働人口の1割を占めているだけの建設業が労働災害の半数近くを占めていると言われていたが、今でも大きな変わりは無いだろう。工場労働のように、熟知された環境の中で働くのではなく、常にオーダーメイドの作品を異なる環境と日々変わる状況の中で作り上げていくので、危険度は比較にならないほど高いからである。 その様な環境もあり、失業率が上昇している中でも慢性的な人手不足の中にあり、若年層の労働者が少なく、定着率の低い会社も多い。もちろん、優秀な技術者や職人を常勤職員として配置して安定した経営を維持している会社の方が多いのであるが、そのような会社では年間の業務が年度末に集中する事に対する経営の平準化に頭を悩ませている。 構造物を立ち上げ、道を造り、街を描いていく仕事の醍醐味と楽しさで、私はこの業界が大好きであるが、今まで述べたような現実を考えると、状況を何とか変えていきたいという気持ちは高い。 野田市の根本市長も建設省の出身なので、想像ではあるがこのような現状を何とかするために、不備が多いことを承知で、自らの市をモデルケースに条例を定めたものと思う。 「不備」という言葉を使ったが、個人的には背景に有る志は理解できるが問題点が気になって仕方がない部分も多いのである。 根本的には、元請けと下請けの間は民々の契約であり、条例に適合するために実体とは別の偽契約書を造ったり、複数の現場での契約として、対象外の箇所で無理をさせたりするのではないかという疑念が消え無いことである。 また、民間での契約金額と公共契約金額が大きく乖離した場合は、納税者にそれを納得してもらえる自信はない。 さらには、賃金が補償されるように条約が適用される労働者の範囲が現場で線引きされるのも腑に落ちない。具体的に言えば、多くの現場ではレッカーのオペレーターやダンプの運転手は外注扱いになり労働者の範囲に入らない。現場に生コンを運んでくる運転手やその品質管理に訪れる技術者等も労働者の範囲ではない。部品を運んでくるトラックの運転手も、多くの場合は車内での仮眠が続き積載荷下ろしを自分の力でやるなど厳しい労働環境の中に居ることが解っていても補償の対象ではないのだ。これは個人的には看過できない気持ちにされるのだ。 一般に安すぎる労働は、質が悪いものになるので、発注者の監督がしっかり品質管理を行うことで、手間もかかるが金もかかるという正常な状況に戻すべきと思うのだ。木更津市ではダンピングしたら利益が出ないという空気が生まれることで、高い精度の製品を適切な価格で購入するようになる事を願っている。 自治体が頑張らねば成らないことは、経営の安定化のために、年間を通じて安定した業務量を計画的に発注することの方が重要だと思うし、賃金については、全ての職業と契約形態を問わず、あまねく救済されるよう、公契約の形ではなく、労働基準法や最低賃金法で対応するべきであろう。 傍聴席で椅子にもたれながら、そんなことを考えていた。 |