農政と自給率を考える
2011/07/30記
 4月に行われた議会の改選後、7月改選の木更津市農業委員会における議会推薦委員2名をどうするかという話し合いが行われ、私と三上議員の両名が選ばれたことは過去の活動報告書に書いたとおりであるが、今月14日の認証式と臨時総会、22日の通常総会と懇親会、そして昨日の新任委員の研修会と矢継ぎ早に公務をこなす中で色々と考えた事を記載する。
 因みに近隣市における農業委員定数は大きな差はないが、同じではなく、議会推薦委員の数も2〜4名とバラバラである。
 
 農業委員会については地方自治法第202条の2の4項で『農業委員会は、別に法律の定めるところにより、自作農の創設及び維持、農地等の利用関係の調整、農地の交換分合その他農地に関する事務を執行する』機関として農地のある市町村には設置が義務づけられている組織で、農業委員会等に関する法律では『農業生産力の発展及び農業経営の合理化を図り、農民の地位の向上に寄与する』事を目的としている。
 具体的な事務の多くは農地法の第3条(権利移転)、第4条(農地転用)、第5条(権利移転を伴う転用)で有るが、平成21年の農地法改正から有休農地(耕作放棄地)の調査及び活用に関する事務も増えているようだ。もちろん、それ以外にも市長部局から独立した機関として、経済部の農林水産課とは別の視点で本市の農政に対する提言を行うことも重要な職務として望まれている。
 
 農地は簡単に農業用の目的以外に使用することが困難なのであるが、耕作を放棄して雑草が生えるままに任せてしまうことに対しては何の届出も許可も必要なく、@相続により非農家の親族が財産を継承、A高齢等の理由で農家が耕作を廃止、B将来の都市化を予測して第3者による仮登記、等の理由で耕作されない農地が近年著しく増えている。
 28日に八千代で行われた研修会資料から、5年に一度行われる農業センサスの数値による本県の耕作放棄地面積について表を作成すると次のようになる。
調査年度 1985 1990 1995 2000 2005 2010
販売農家 1,762 5,240 5,587 7,623 6,822 5,962
自給的農家 411 1,130 1,375 1,933 2,770 3,232
非農家 1,005 1,616 2,200 5,305 7,466 8,769
耕作放棄地合計 3,178 7,986 9,162 14,861 17,058 17,962
 上表で、販売的農家とは30[ha]以上の農地を耕作、又は50万円以上の売り上げの有る農家で、自給的農家とは販売的農家以下の面積又は売り上げで主に家庭消費用に農業を営んでいる農家を示す。なお、耕作放棄地には、今後数年以内に農業を再開する意志の有る『不作付け地』は含んでいないので、現状で耕作されていない土地はもう少し広い。
 これをグラフにすると数の通りである。
 グラフにすると、バブルの発生と崩壊を経て、特に非農家の面積が急激に増加していることが解るであろう。
 
 さて、日本の農政の問題として食糧自給率が低いことが取り上げられる。世界ではカロリーベースという統計は異例なのであるが、日本では供給ベースの自給率が40%を切ったので改善しなければならないと農水省は話し、民主党はその解決策として個別補償を始めている。
 カロリーベースでは、園芸農家は当然として、野菜を作る農家も数値改善に寄与しない。世界は金額ベースが常識であり、従ってチューリップで売り上げを伸ばすオランダは農業国というイメージが強くなるが、我が国ではそうではないという問題がある。
 さらに供給ベースでは実際に胃に入らずに廃棄される食べ残しや鮮度が落ちたら破棄される弁当等の食材が分母を押し上げる事に成るので自給率の数値は低くなる。仮に現在25%近く廃棄されている食材を10%程度に改善できたら民主党が2020年の目標とする自給率50%は農業の改善を伴わずに達成できるので、本気で自給率を上げたければ、廃棄に罰則を加えるべきだと思うが、そのような動きはない。
 さらに自給率の改善が大事だと話ながら、市長村別の自給率も発表されず、近年の電力需要と同様に数値の確からしさが疑わしいと私は考えているのであるが・・・・と少し話が脱線した。
 
 で、2010年で県内に約1万8千[ha]の農地が空いており、この農地の半分で肥料米を作成したとすると、肥料米は味より丈夫で収量が優先される品種なので1反(=0.1ha)辺りの収穫が食用米の約8俵(=480kg)より多い15俵(=900kg)程度は取れるようであるから、約8万tは生産されることになる。
 年間の穀物飼料用輸入量は1600万t程度らしいので、0.5%にしかならないが、それでも少しはカロリーベースの自給率を上げることが出来る。政府も転作に0.1ha辺り8万円の補助を出すと言っているのに、制度が始まって間もないためか、耕作放棄地で飼料米が増えているという話は聞かない。
 中には規模拡大をしたい農家も有るだろうが、所有者が近隣に住んでいない場合等の問題が有るようだ。耕作放棄地の課税を極端に上げて、人に耕作して貰わないと大変なことになるような制度を設ければ、自給率が上がるばかりでなく、雑草で埋もれ不法投棄や枯れ草火災を招くような農地を解決することが出来るのに、案外自給率を高める努力が半端だと思っている。
 
 ついでに言えば、自給率を上げるためには和牛の生産を止めて、鶏肉等のように1kgの肉を得るのに少ない餌で済む動物性蛋白だけを国産にすれば良く、さらにパンも米粉製を優先する制度を設けるなどの施策も取れるが、国民の不満は多くなるだろう。
 農業国が天候不順などの理由で輸出を禁止するという事態が想定できる以上、農作物を生産できる国家体制を維持することは重要だと考えており、その点ではTPP参加に対する危惧がある。
 しかし、権利移転や農地転用に注視して農地を確保する事と同様に、耕作者を確保と土地の借用を容易にする制度を設けなければ、耕作放棄地が増えるだけで、食糧安定供給を果たすことが出来ない。地域も頭を使う必要があるが、国政の責任も重い。
 
 この夏から議会選出の農業委員になる中で、農政について考えを巡らせていた。