歌の力に感動する
2011/09/26記
 決算審査の審議が終わったら連休の前半に1泊で4ヶ月ぶりのいわき市に行ってボランティアをしようと思ったのは2日目の審議が終わった夜のことであった。前回市街地でホテル探しに苦労した経験があった事と、連日の審議の一夜漬けで睡眠時間が少なかった事も有って、いわき市郊外に多く点在する鉱泉宿にでも泊まればゆっくり休めるし、風評被害で宿泊客が減っている宿の励みにでも成るだろうと考え、ネットで吉野谷鉱泉を探し出し予約した。
 23日の夕方に辿り着いた宿は都市再生機構が整備する『いわきニュータウン』の中に有りながら、調整池の奥に大正時代の建築が取り残された形で、薪で涌かす鉱泉の浴槽も渋い、今風の温泉とは一線を画した見事な湯治場であった。名湯として地域に名が通って居るようだ。
 少し歩けば新興住宅街と、付属する商業施設が現れるのであるが、木立に囲まれた宿の中では夕食後に読書程度しかすることもなく、7時のNHKのニュースを見終えたら続くNHKスペシャルとして『きこえますか 私たちの歌が〜被災地 のど自慢〜』という番組が始まった。
 昼休みに放映されているNHKのど自慢は、通常で有れば見ることが無い番組だが、このスペシャル番組は被災地の方々がのど自慢の一曲に込める思いを丁寧に取材していて、気が付いたら涙が流れていた。特別な場で歌うことで多くの人を励まそうとする人、亡き親しき人を送ろうとする人、何か変わるきっかけを作ろうとする人など、歌の力によって一歩前に進もうとする人の姿に心が打たれたのだ。
 
 震災後に『ラジオの力』とか『歌の力』という事が改めて見直されている。私もHPの更新作業をしながらラジオを聴くことが多いが、多くのDJが何を話して良いか迷う中で、逆に被災者から届くメールに励まされながら続いていく番組をリアルタイムで聞いていた。
 震災後に励まされるということで「アンパンマンのマーチ」を筆頭に平原綾香さんの「ジュピター」、中島みゆきさんの「時代」、岡本真夜さんの「TOMORROW」等が繰り返し流されている中で選挙をしていた3月の記憶が甦ってきた。
 歌を聴くことが励ましに成らない程、心傷ついた人も居たであろうが、全体的には歌の力で、もどかしさや無力感が拭われていったのだろうと今でも思っている。もちろん、力があったのは音楽だけでなく、ACが繰り返し流していた金子みすずに代表される詩や、心温まるような映像、そして芸能人を含む多くのメッセージや震災から少しの間を置いて量が増えてきた感動を伝える新聞の記事によって癒された人も多かっただろうし、海外の様々な所から届けられる支援の手に希望を見た人も居たであろう。しかし、多くの人が自然と口にするのは、やはり音楽であり、被災地で歌われる曲は誰かを思って、誰かのために歌われているものが多い、という事に改めて気が付いたのが、いわき市の夜であったのだ。
 
 歌手でもない私は、歌の力によって被災地を励ますことは出来ないけれど、もう外部の協力が無くても大丈夫かな、と思える時まで東北に出かけ、直接顔を合わせるごく少数の人を元気付けることは出来るかな、と思いながら翌日の作業のために早めに眠りにつくのであった。