上水道と井戸を考える
2011/10/18記
 私の近所に住む大先輩より次のようなメールが届けられた。
 
 『市立図書館の駐車場が拡張整備され大変使いやすくなり有難く思います。一方で、同じ場所にあった木更津市の井戸がどうなったか気になりました。以前からもう使用していなかったんでしょうか。木更津は地下水が豊富で、いい水が出ていたように思いますが、最近は事情が変わってきたのでしょうか。』
 
 私の近所には本市の水道事業の先駆けとなった旧帝国海軍が建設した岩根浄水場があり、その地下水を飲んでいた頃は水が美味かったが小櫃川の表流水が混ざるようになってからは不味くなった、と学生時代に聞いた記憶がある。
 平成22年度決算ベースでは、年間の水源の量1717[万t]のうち井戸による自己水は約587[万t]で、23本の深井戸で構成されており、図書館前の施設は既に使用を止めている状況であった。岩根浄水場も金田配水池が出来た後、将来的には廃止に成るようだ。また、自己水以外は全て君津広域水道事業団から受水しているものである(下図及び表を参照)。この自己水と受水の比率に大きな変動はなく、最近事情が変わってきたわけではない。
水量[m3] 構成比 備考
自己水 5,868,609 34.2% 深井戸
受水  11,298,486 65.8% 小櫃川
合計 17,167,095  100.0%  
 因みに、1717[万t]のうち販売できたのは1397[万t]であり、その比率(有収率)は81.4[%]である。2008年に3.1[%]まで漏水率を下げた東京都水道局の有収率は平成21年度で95.6[%]と本市を大きく引き離し、海外都市に水ビジネスを仕掛けるまでに成っている。そこまでの性能を人口13万人の自治体水道に要求はしないが、まだまだ努力は必要である。
 
 さて、メールにあった「最近は事情が変わってきた」ことが別の点に問題として現れている。それは決算委員会でも明らかになったように、大口需要者に井戸水を供給する民間会社が現れてきたことだ。その料金は市の水道料金より若干安い金額に設定され、その会社に切り替えた事による昨年度の収入減は、およそ73百万円に達するという事である。
 井戸の設置は県条例により厳しく制限されているのに、何故その様な事業が行えるのか疑問に思って本日(10月18日)の午前中に市の環境部で聞き取りを行った結果は次の通りである。
 
 国は環境基本法の中で、典型7公害として1)大気汚染、2)水質汚濁、3)土壌汚染、4)騒音、5)振動、6)地盤沈下、7)悪臭を指定しており、それを受けて千葉県でも環境保全条例を定めている。
 その中で、6)の地盤沈下を防止するため井戸の設置を規制している。その対象用途は@工業用、A)鉱業用、B建築物用、C農業用、D水道用、E工業用水道事業用、Fゴルフ場散水用であるので水道用は当然規制を受けるものと思っていた。しかし、この規制の対象になる井戸は吐出口の断面積が6[cu]を超えるものであり、直径1[inch](=2.54[cm])のものは大面積が小さくて対象に成らないのである。水道とライバルになった会社がどの様な設備を設けているかは解らないが、1[inch]の井戸で吸い上げた水をタンクに溜めて需要に対応するようなものでは県条例に抵触することなく設置が可能なのである。
 
 それを規制するために、県条例の横出し上乗せとして、市の独自条例を設置することは手続き的には可能である。しかし、個人所有の多くの井戸も規制対象にしてしまうことや、現状で地盤沈下が生じていない中で環境基本法を根拠とした条例を制定することの困難さがあり、容易では無いらしい。
 今回の震災を見ると、津波被害を僅かでも軽減するため、地盤沈下が予見される前に規制を掛けることも可能ではと思うし、皆の共有財産である地下水を利用して営業をする民間会社が存在することが私は個人的に釈然としないのである。
 
 公害としての地盤沈下を離れて、水道事業としての経営面での圧迫を考えると、大口利用者の減少により君津広域水道企業団からの受水も減る事になると、定額分の支出が有るために単位水量辺りの料金が高くなり、水道原価が上がることで設備投資が抑えられると漏水対策が遅れ、結局市民が損をすることになる。
 市としても指をくわえて見守っているだけでなく、社団法人日本水道協会を通じて厚生労働省に働きかけていると言う事であるが、その仲立ちをする水道協会に、この井戸水を売る会社も加盟しているので話は上手く進まないように思われる。
 こうなれば利用者のモラルに訴え、市民のために切り替えをしないように頼むのも手法の一つとは思うが、制度として防止することは出来ないだろうかと考えている。
 特にこれから巨費を投じて建設する金田配水池から供給する予定の金田東地区に進出する企業が、蓋を開けてみたら井戸水を使用して、配水池の稼働が悪かった、等という結果に成らないように対策を考えることは責務であろうと思いつつ、良い案が浮かばずに悩んでいる現状である。
 
 ※10/19にグラフと表を挿入し、文面を一部変更し、10/23に再度加筆修正をした。