国境の喧噪に思う
2012/08/19記
 オリンピックで世界が近く感じられるこの夏。しかし日本近海では、7月3日にロシアのメドベージェフ首相が2011年の大統領時代に引き続き、またも北方領土の国後島を訪れたと思っていたら、8月10日には島根県の竹島(韓国名・独島)に韓国の李明博大統領が上陸し、今月15日には香港の活動家と言われる14人が尖閣諸島の魚釣島に不法上陸するなど、急に日本の国境地帯が騒がしくなってきた。
 
 竹島問題ではオリンピックのサッカー3位決定戦となる日韓戦後に韓国側選手が政治的メッセージを掲げると行った常識違反が発生して韓国サッカー協会が謝罪に追われ、香港活動家の違法上陸では中国国旗とともに掲げられていた青天白日滿地紅旗(中華民国の旗)を報道の際に画像処理して見せなくするなど、先方の国内でも騒動が起きていると思っていたところ、本日日本側でも動きがあったようだ。
 尖閣諸島に違法上陸した者を処罰せずに強制送還した結果なのか、今度は日本人9人が魚釣島に上陸したようである。
 
 速報では、その中に茨城県取手市の市議会議員や東京都荒川区の区議会議員も居るようで、国政に携わらない地方議員が国内外の動きにいたたまれず行動を起こしてしまった、というように想像されるが、詳しくは今後の報道を待つとしよう。
 なお、立ち入り禁止区域になっている尖閣諸島に上陸するには国の許可が必要なため、軽犯罪法違反にあたる可能性があるという事であるが、中国人を不問にしながら日本人を罰することが出来るのか疑問である。
 さらには、今後、香港の活動家をまねて、海上保安庁や諸国の監視を逃れて、竹島や国後島に上陸する日本の活動家が出てくるのではと心配している。その場合、韓国やロシアは日本と同じような対処を執るのだろかという事も気になっている。
 
 もちろん、私はこれらの領土を外国に渡してしまえば友人関係が維持強化できるなどと言う夢想家には組みしない。尖閣諸島には港を整備して灯台と気象観測機(アメダス)を設け、さらには自衛隊の基地も置くべきだと思うし、竹島や北方領土は日本の実行支配に早く戻ってきて欲しいと思っている。
 ただ、竹島問題については『竹島は日韓どちらのものか』(下条正男著:文春新書)で韓国の主張が如何にいい加減かを読んで知っているが、百歩譲ると日韓併合条約の正当性を韓国政府が認め、日本の一部であったときに行われた公共事業等に正しい評価を行い、第2時大戦後の賠償は個人を含めて蒸し返さず、さらに今後の漁業権の交渉に当たっては竹島を考慮に加えないなら、日本からの分離祝いとして与えても構わないと少しは考える。
 北方領土については『北方領土問題』(岩下明裕著:中公新書)に有るように、双方の政府の妥協として日本は国後を含む3島を執り、ロシアは北方領土の63,4%という面積を占める択捉島をロシア領として維持するという妥協案は、現状の硬直した情勢下では現実的と考えている。
 
 今までも全国の旅の中で、納沙布岬や隠岐の島で、それぞれの地元が失われた国土を嘆く声を生で聞いているし、個人的な趣味の世界でも、知床から見た国後島は特に行きたいと願うし、島の最高峰である爺爺岳[1,822m]には登山したいと願っている。
 
 また、単なる岩山である竹島や尖閣諸島も一度は近くで見たいと願っているから、本日の日本人上陸団が少しだけ羨ましいとも思っているのは事実だ。
 
 ただ、多くの国民が報道やネットの情報で熱くなっているようだが、それは広州でデモをしている中国人と本質的に差がないと思うので、もう少し日本人は冷静であってもらいたいと思う。
 ヨーロッパでは国境の意味が限りなく低くなり、第2時大戦前に有ったような国境争いは聞かれない。統一された通貨と移動の自由が国家の概念も小さくしているだろう。
 アジアの隣国には偏屈な国家主義、というか盲目的愛国主義が教育によって再生産されている状況なので、国境は必要以上に大きく騒がれてしまう。これで経済や文化交流に悪い影響だけを残すとすると何て不幸なことだろうと思う。
 中国がフィリピン・マレーシア・ベトナム等との間で行ったように、油断をしていると軍事的に尖閣を盗られる懸念は拭えないので、単純に無視する事は出来ないが、国境問題に掛けるエネルギーをもっと建設的な事に向けられないものかと、最近の報道を聞きながら思っているのである。