農地と農業を考える
2013/07/08記
 5日に何気なく立ち寄った鴨川市の大山千枚田は、地域の人達が一斉に草刈作業を行っており、畔の雑草も綺麗に刈り払われた美しい棚田の風景が広がっていた。
 
 私は、この風景の中に1枚として休耕田が無いことを感動して見ていた。
 
 平成9年度に結成された「大山千枚田保存会」は東京から一番近い棚田と題して、この水利に不自由な土地を積極的に活用して、主に都会に住む住民に棚田のオーナーとなってもらい、農作業の経験と四季の自然を満喫するオーナーと交流することを通じて地域の活性化を図っている。大山地区では毎年136組のオーナーが米作りに取り組んでいるだけでなく、平成16年度からは、鴨川市内に点在する他の地区(釜沼・山入・南小町・川代柿木代・星ヶ畑・嶺岡二子)の棚田でもオーナー制度が活用され、大規模農業が困難であった中山間地の活性化が図られている。
 大山地区におけるオーナーの会費は、作業参加・交流型で1区画(約100u)で年額3万円である。普通の水田における米の生産能力が1反(約1000u)で8俵(480kg)程度で、1表の販売価格が1万3千円程度なので、100uでは1万円程度しか収入にならない。まして棚田ではそれより収量も減るし、労力は膨大に投入しなければならない。そこを貸し出すことで米を作るより多くの収入が得られるだけでなく、地域に多くの人が訪れることで過疎地にも賑わいが生まれるのである。この活動の広がりを見ると、始めた方々の慧眼に感服するばかりである。
 
 農作業を経験したいという欲求は都内だけに限らず、例えば波岡公民館の下に広がる谷間では大久保団地等に住む住民による家庭菜園が細かい区画で営まれており、農作業の道具を入れるボックスや小さなビニールハウスが林立する不思議な景観を見せている(※写真は7/14に追加)。
 
 
 その一方で、全国では遊休農地が増え続けている。我が家の近
所でも水田であった場所が荒れ果て、一部は森林にまで戻っている。こうなると簡単には水田や畑に戻すことは出来ない。
 
 農業センサスによると木更津市でも遊休農地が確実に増えており、平成22年度では下表に示すように471[ha]にも成っている。
土地の区分 平成12年 平成17年 平成22年
遊休農地面積合計 [ha] 227 431 471
 販売農家が保有する遊休農地 174 145 115
 自給的農家が保有する遊休農地 68 91
 土地持ち非農家が保有する耕作放棄地 217 265
 これをグラフにすると下図の通りとなる。
 ちなみに平成22年での耕作面積は2610[ha]なので、15%程度の土地が耕作されていない農地である。また471[ha]を真四角にすれば一辺が2.17[km]ともなる広大な土地である。とても勿体無い話であると思う数値である。
 
 グラフに示すように土地持ち非農家が保有する耕作放棄地が特に増加している。これは投機目的で農地を購入した非農家が増えたというより、農家であった両親より相続で受け継いだ非農家世帯が土地を持て余しているという状況が多いだろうと推察できる。
 農業委員会や農協も、このような遊休農地を意欲のある農家に貸し出すよう政策を進めているが、農地の保有コストが低いため、積極的に貸付を行う者は多くない。さらには規制緩和により調整区域内に住宅建設が可能になっているので、いつかは資産運用を行う場合の障害になる賃貸借契約を結びたくないという判断も有るのだろうと思われる。
 TPP交渉で農業の将来が心配される中、足元では確実に農業の衰退が進んでいるのである。鴨川市の大山千枚田は、それに対する答えの一つを見せているようで、眩しく広がっていた。