廃棄物処分場を試算する
2013/08/13記
 木更津市の水道水源である小櫃川の主要な支流の一つである御腹川の源流にあたる君津市怒田で、大福山西側の谷を埋めて新井総合施設鰍ェ最終処分場の拡張を計画している。
 現在、第1期の殆どを埋め立てているが、調査井戸で塩素が検出されたことより第1期は県の指導で中断されている。しかしながら同敷地内にある第2期分については順調に処分を続けており、現在は第3期の申請を行う事前作業として林地開発の申請作業を行っている。
 6月議会で、この拡張を認めないように要望が出され、継続審議となっていたが、今月9日に現地視察を行ってきたので、それについて考えるところを述べたい。
 
 産業廃棄物処分場については過去にも地域で大きな問題となったことがあり、特に1988年に今回の新井総合とは別の業者が、同じ御腹川流域で安定型処分場の建設を進める中で、それを阻止する目的で「小櫃川の水を守る会」が結成され、その署名活動の結果として関係市の全てに水源保護条例が制定され、小櫃川流域では排水基準が国より厳しいものとなっている。
 それから25年が経過して、今回の問題である。水源保護条例の規定がある中なので当然厳しい対応を行っていることだろうと、思いながら「先端技術」の処分場を見させていただいた。
 幾つかの処分場を過去に見てきたことがあり、それと比較すると、自己修復シートを挟んだ7層の遮水シートとか、第2期工事より採用された逆浸透膜処理など、今の処分場はここまで進んだか、と感心させられる技術が揃っていた。逆浸透膜により分離されたイオンは乾燥して袋詰めにし、他の処分場に送っているという事であり、全量を処理すれば放射性物質さえ除去される。このシステムの運営コストが高いのに、ここまで対策することには感心した。また我々が視察に来ている為か解らないが、現場も整然と綺麗で、埋立に当たっては重機がシートを破損させないよう、古畳で保護していた。畳はそのまま埋め立てられ、土中で分解が進み、流出した汚濁物質は水処理施設で処理する事になる。
 
 しかし、処理能力が生物的処理系で300[t/d]、逆浸透膜処理系で180[t/d]の合計480[t/d]に過ぎず、調整池が3万[t]しかない事について疑問を感じたので、全水量が処理行程を経ることが可能なのか、勝手に試算してみた。
 前提として、ここ1年間の実際の雨量をモデルとした。雨量は気象庁のアメダスデータの「坂畑」を使用し、季間は昨年の7月1日から今年の6月30日までとした。因みに、その間の累積降水量は1897[mm]なので、1981〜2010年平均値である2050[mm]よりは若干少ない。
 必要な調整値の容量に着目し、計算は3通りのモデルで行い、下図の結果を得た。
 赤線は処分場面積(204,541u)に降った雨が全て浸透も蒸発もせずに水処理施設を通り、毎日480[t]が処理されるとしたものである。現在の調整容量の3万[t]は夏の終わりと同時に凌駕し、20万[t]の調整池を設けても1年以内にはオーバーフローが生じる事になった。しかし、これは全流出の前提で、実際には土の中に染み込み、晴れた日には蒸発して流出しない分が存在する。
 黄色の線は毎日降雨2mm分の蒸発が起きるとして計算した。因みに年間の蒸発量は730mmとなり、平年降雨量の35.6%が蒸発することになる。1uで考えると毎日2リットル、処分場全体では毎日約409[t]の蒸発量である。この場合でも現在容量では不足し、3倍となる9万[t]の調整池が必要となる事が解る。なお、通常は地中に浸透し、地下水となって流出する分がそれより多く存在するが処分場では遮水シートにより分断されているので浸透は無く、逆に地区外から地下で流入するものも無いとして計算する。
 最後の青線は黄色のケースと同じ蒸発量を考慮しつつ、廃水処理面積を処分場面積ではなく、第1期と第2期の埋立面積の合計(87,840u)に限定したものである。技術的には埋立エリアの周辺に排水路を設け、それを処理場の下流まで誘導すれば済むことで、現場もそのような対応が為されていたようだ。しかし、この場合でも4万[t]程度の調整池が必要で、現在のままでは大雨が降ると処理施設を経由せずに小櫃川に流れていると想像される。
 
 現場でも調整池が小さいのではと質問したが、盛り土した法面の水は小段排水を通って処理施設を経ずに直接放流しているので面積が更に狭くなるように計算しているから大丈夫という答であった。浸透した水は法面からも滲み出る可能性が有る中で適切な対応とは思えない。但し、これは県の指導に従っての計算だと思われる。処分場に過大な設備を要求しないよう、指導要綱は考えられている傾向があるのだ。
 何れにしろ、現在の処理場の調整池で第3期まで拡張した場合は処理されずに流れる水が予想されるので、水源地に相応しいかと聞かれると、問題があると答えざるを得ない。さらに、この1年の最大降水量は81.5[mm/d]なので、強力な雨によるオーバーフローは簡単に想定できるのである。
 施設は処分場としては最良に近いと思われるが、それを何故水源に設けてしまったのか悔やまれる所である。
 
※8/15に写真と文章を一部追加