合計特殊出生率を考える
2014/11/16記
 政府の「まち・ひと・しごと創生本部」が人口減少対策の長期ビジョン骨子案に合計特殊出生率を1.8程度に引き上げる目標を盛り込んだ事が今月6日に発表されたが、それに対して『国家が産めよ増やせと音頭をとるのか』と異論が出ていると聞く。
 最近ベストセラーに成りつつある『地方消滅』(増田寛也編著・中公新書)を先月に読破し、国家による少子化の流れは巨大な船が舵を切っても直ぐ曲がれないのと一緒で、今突然に出生率が人口維持の目安である2.1を越えたとしても、その子どもたちが次の世代を産むまでには20年以上の時間が掛かり、それまでは減少が続くと理解していたので、この情勢を考えると今まで人口政策が無さ過ぎた事の方が問題と思っていたので、私は政府の方針に基本的に賛成である。
 
 そんな中で、木更津市の平成25年度における合計特殊出生率が千葉県内の54自治体で最高になったと話を聞いた。千葉県では平成8年より各市町村の合計特殊出生率を、人口動態調査による出生数と住民基本台帳人口等を使用して算出し、公表しているというので、その値を県のHPより引用し、木更津市について整理してみた。
 発表を開始した平成8年、木更津市の合計特殊出生率が発表期間中で最低の1.23を記録した平成15年、そして平成25年を比較した物が、次の表である。
平成8年 平成15年 平成25年
市町村 出生率 市町村 出生率 市町村 出生率
1 館山市 1.77 1 海上町 1.68 1 木更津市 1.52
2 和田町 1.71 2 和田町 1.65 2 流山市 1.50
3 多古町 1.69 3 干潟町 1.42 3 君津市 1.48
4 長柄町 1.68 4 成田市 1.40 4 鴨川市 1.45
5 野栄町 1.61 5 館山市 1.39 5 袖ケ浦市 1.45
6 山武町 1.59 6 三芳村 1.38 6 旭市 1.44
7 光町 1.57 7 長生村 1.33 7 四街道市 1.43
8 成田市 1.54 8 君津市 1.32 8 成田市 1.42
9 蓮沼村 1.54 9 富津市 1.32 9 船橋市 1.39
10 松尾町 1.54 10 蓮沼村 1.32 10 匝瑳市 1.39
11 丸山町 1.54 11 野栄町 1.31 11 神崎町 1.39
12 大多喜町 1.52 12 千倉町 1.31 12 御宿町 1.39
13 下総町 1.51 13 旭市 1.30 13 南房総市 1.38
14 山田町 1.51 14 佐原市 1.30 14 館山市 1.37
15 三芳村 1.50 15 富浦町 1.30 15 八千代市 1.37
16 袖ケ浦市 1.50 16 大栄町 1.28 16 松戸市 1.36
17 海上町 1.49 17 袖ケ浦市 1.27 17 千葉市 1.35
18 旭市 1.49 18 大多喜町 1.26 18 習志野市 1.35
19 横芝町 1.48 19 大原町 1.26 19 東金市 1.34
20 岬町 1.48 20 八千代市 1.25 20 市原市 1.34
21 白浜町 1.47 21 市原市 1.25 21 鎌ヶ谷市 1.33
22 印西市 1.47 22 本埜村 1.25 22 市川市 1.32
23 佐原市 1.47 23 富山町 1.25 23 柏市 1.31
24 東金市 1.46 24 八日市場市 1.24 24 印西市 1.29
25 成東町 1.46 25 丸山町 1.24 25 富里市 1.29
26 鋸南町 1.44 26 木更津市 1.23 26 横芝光町 1.29
27 栗源町 1.44 27 鎌ヶ谷市 1.22 27 一宮町 1.28
28 飯岡町 1.44 28 松戸市 1.21 28 我孫子市 1.27
29 大栄町 1.44 29 流山市 1.20 29 野田市 1.26
30 八日市場市 1.43 30 富里市 1.20 30 茂原市 1.25
31 八街市 1.43 31 船橋市 1.19 31 白井市 1.24
32 君津市 1.42 32 東庄町 1.19 32 いすみ市 1.23
33 勝浦市 1.42 33 市川市 1.18 33 香取市 1.21
34 大原町 1.42 34 小見川町 1.18 34 酒々井町 1.20
35 長生村 1.41 35 松尾町 1.18 35 大多喜町 1.20
36 夷隅町 1.41 36 下総町 1.17 36 佐倉市 1.19
37 市原市 1.40 37 光町 1.17 37 多古町 1.18
38 茂原市 1.40 37 白浜町 1.17 38 銚子市 1.15
39 木更津市 1.39 37 山田町 1.16 39 長柄町 1.15
40 大網白里町 1.39 37 浦安市 1.15 40 白子町 1.14
41 神崎町 1.39 37 八街市 1.15 41 長生村 1.13
42 九十九里町 1.39 37 千葉市 1.14 42 浦安市 1.11
43 千倉町 1.37 37 芝山町 1.14 43 八街市 1.11
44 富里市 1.37 37 鴨川市 1.13 44 大網白里市 1.10
45 長南町 1.37 37 我孫子市 1.13 45 山武市 1.08
46 松戸市 1.37 37 多古町 1.13 46 富津市 1.06
47 白井市 1.36 37 成東町 1.13 47 九十九里町 1.06
48 野田市 1.36 37 御宿町 1.12 48 東庄町 1.04
49 東庄町 1.35 37 柏市 1.12 49 栄町 1.03
50 銚子市 1.33 37 茂原市 1.12 50 芝山町 1.03
51 一宮町 1.32 37 印旛村 1.12 51 睦沢町 1.03
52 富山町 1.32 37 飯岡町 1.12 52 鋸南町 0.93
53 市川市 1.31 37 習志野市 1.11 53 長南町 0.90
54 沼南町 1.31 37 野田市 1.11 54 勝浦市 0.89
55 鎌ヶ谷市 1.31 37 九十九里町 1.11 市町村合併により
自治体の数が減少
56 千葉市 1.30 37 長南町 1.11
57 白子町 1.30 37 大網白里町 1.10
58 芝山町 1.29 37 沼南町 1.10
59 関宿町 1.29 37 東金市 1.09
60 船橋市 1.29 37 天津小湊町 1.09
61 八千代市 1.28 37 印西市 1.08
62 浦安市 1.28 37 四街道市 1.07
63 四街道市 1.28 37 一宮町 1.07
64 鴨川市 1.27 37 銚子市 1.07
65 柏市 1.27 37 長柄町 1.07
66 習志野市 1.26 37 佐倉市 1.05
67 睦沢町 1.25 37 夷隅町 1.05
68 佐倉市 1.24 37 神崎町 1.03
69 流山市 1.24 37 酒々井町 1.03
70 我孫子市 1.22 37 睦沢町 1.03
71 富津市 1.22 37 勝浦市 1.03
72 富浦町 1.21 37 栄町 1.02
73 干潟町 1.18 37 白井市 1.00
74 栄町 1.18 37 白子町 1.00
75 小見川町 1.16 37 岬町 0.99
76 天津小湊町 1.14 37 鋸南町 0.97
77 御宿町 1.11 37 山武町 0.96
78 印旛村 1.06 37 横芝町 0.93
79 酒々井町 1.06 37 栗源町 0.84
80 本埜村 0.88
 平成8年には県内中位に有ったものが、木更津市が数値を減らす以上に数値を落とした自治体が増加して順位は自然と上がり、いよいよ県内最高となったのである。今回の1.52という値は平成8年なら12位であるので、この17年で県全体が低下している事を実感させられる。
 
 合計特殊出生率の計算では、女性の出産可能年齢を15〜49歳に限定し、各年齢ごとの出生率を足し合わせ、一人の女性が生涯、何人の子供を産むのかを推計するものである。年齢5歳階級別の出生率で計算する場合は、1つの年齢階級の出生率で5歳経過すると考えるため出生率を5倍にする。そのため小規模自治体で、例えば30-34歳の5歳階級に一人しか女性が居なくて、その女性だけが一人の子供を産んだだけだとしても、その自治体の合計特殊出生率は5.0になる(つまりその自治体の女性は30,31,32,33,34に成る年に一人づつ子供を産むという評価になる)という数字のマジックは有るが、通常規模の自治体で有れば傾向は見えると考えて問題ないだろう。
 ちなみに平成25年における木更津市の5歳階級別の値は下表の通りであり、Dの値を合成したものが合計特殊出生率である。
15-19 20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 合計
出生数:A 16 126 308 385 235 40 0 1,110
女性人口:B 2,997 2,902 3,313 3,776 4,482 4,998 3,710 26,178
C=A/B 0.005 0.043 0.093 0.102 0.052 0.008 0.000 0.304
D=5×C 0.027 0.217 0.465 0.510 0.262 0.040 0.000 1.521
 
 全国、千葉県、木更津市及び近隣市ではどの様に推移してきたのか、県のデータを元にグラフを作成してみた物が下図である。
 千葉県は全国平均より常に下の値であり、木更津市は平成21年頃より全国平均を上回り、比較的高位を維持している。君津市と袖ケ浦市も全国と同様の傾向を示しているが、特徴的なのは富津市であり、平成15年を除くと10年以上1.05前後で推移している。富津市の人口減少が進んでいるが、このデータを見ると納得させられる。
 ここからは推測であるが、若い富津市民は近隣市と比較して子供を産まないのではなく、出産を契機に木更津の新興住宅地に引っ越しているのではと考えられる。推察の根拠は、この様な現象が長野県の飯田市と下条村の間で起きていたからであるが、詳細な調査を行ったわけではない。
 
 では特色有る県内自治体の状況はどうかと、財政力の抜きん出ている成田市、東京近郊の浦安市、過疎に悩む勝浦市・銚子市・館山市を本市と比較してみた物が次の表である。
 木更津と成田、館山市が高水準を維持し、浦安、銚子、勝浦は低水準である。低水準の浦安は東京都の極端な低さに引っ張られているものと思うが、館山と銚子の差の原因を考えることが私には出来ない。
 
 子供の姿を多く見かける場所が羽鳥野である。そこでは似たような境遇の若い親がまとまっていることで、現在は保育園が遠くても安心して子供を産むことが出来ているようだし、何より安い土地代が住宅ローンの負担を軽減させ、子供への投資を削る事を防止できているのではないかと思う。
 本日の朝日新聞を読むと、神戸市は学区ごとに人口変動の要素を調べ、人口維持対策に取り組み始めていると書いてあった。木更津市でも現在の値が高いと奢ることなく、子供が増える要素を様々な角度で分析し、それを施策に反映することで、学校の存続が問題視される中郷や富岡等で子供が増える施策を展開すべきではないかと思うのである。