TPP妥結に思う
2015/10/08記
 昨日、アメリカからTPP妥結の報道が伝えられた。肉類の関税は大幅に下げられ、米や乳製品の税率は維持されたが輸入枠が拡大されるなど、日本の農業が壊滅するのではないかと心配され、農協を始め多くの農業団体が懸念を示す中での妥結である。
 成立のためには各国の議会承認が必要であり、早速アメリカでは大統領候補の多くが反対の姿勢を示すなど、先行きは不透明であるが貿易自由主義者にとっては大きな一歩になった妥結と思われる。
 
 異常気象が続く状況の中で日本の農業が壊滅すると非常時には国民を餓えさせる事態になるという意見が聞かれる。その視点には理解できるが、それで有ればカロリーベースで寄与の大きい米作を推奨するために高額での国家購入を勧め、小麦文化圏に安価で輸出するとともに日本食の文化を広め、長期的には日本の米を食べる食習慣に変えてしまうといった戦略的農業をとるべきだと思うのだが今回は農政の話をしたいのではない。
 
 もっと多くの心配をしているのは堤未果さんが岩波新書で報告している貧困大国アメリカシリーズに示す民間保険の参入による国民皆保険制度の崩壊や医療の自由化による医療費の高騰、鈴木宣弘東大教授が指摘するように国内で規制されている成長ホルモンや農薬を使用して育成された食品が輸入されることによって生じる健康被害である。
 安くなったからと喜んで食べ続けた結果、病気になって遙かに高い医療費を支払い続けることになったら誰が得をするのかという話を突き詰めるとアメリカの製薬会社や保険なのか疑われる事に繋がりそうである。
 
 貧困大国アメリカでは人並み以上に所得がある人が病気に掛かったことで簡単に貧困層に転落していく状況を示しているが、現在でも格差が拡大している日本において、規制を通じてでも守らねば成らない制度は数多くあるものと思う。
 TPPで恐ろしく感じるのは、各国が国民の利益を考えて行った規制が貿易を疎外した場合、それを国際裁判所で争うことが可能になっている事である。守らねば成らないことが出来ないような制度でよいのだろうかと多くの人が思いながら、交渉過程に関する資料は4年間秘密にされると決められ、不透明な中で賛成だ、反対だと決めさせられる事である。
 
 現在一つの国になっている日本で、例えば北海道の酪農が千葉県の酪農に影響を与えるので規制すべきだと言った議論が起きていないように、長期的には貿易は自由化に向かうべきと思うが、それは各国の所得が均衡してからだと思う。また、大資本が貿易ルールを左右するような制度ではなく、健康や安心といった価値観を優先できる制度の中で行われなければ成らないと考える。
 これから日本でも国会論争が進むだろう。圧倒的に多数の与党であるが、間違っているものは正すような姿勢で議論が行われていくことを切に願いながら今回の記載とする。