世界の成長を願う
2017/01/22記
 アメリカ合衆国の第45代大統領としてドナルド・J・トランプ氏が低支持と反対デモの起きる中で就任し、最初の演説でアメリカ第一主義を唱えていたことが連日のニュースになっている。
 私は個人的にTPPは交渉過程の不透明さ、国民ために法律を変えた国家が多国籍企業に裁判で負ける事もあるISD条項、医療・保険・農業等の様々な問題が気になるため賛成ではなかったので、それから離脱することは嬉しい点もある。
 しかし、アメリカ製品を買うべきだという保護主義が蔓延する事態に繋がりかねない点には大きく危惧する。特に世界第一の経済大国であるアメリカが生産力の移転を制限すると周辺諸国は貧しいままにおかれ、国家間における貧富の差の拡大は却って不法難民を増やすことに繋がるのではと思うし、インターネットで情報が入手できる現代社会において中国が瞬く間に日本を追い抜く工業国家となったように、アメリカ以外の国力が増えることを止めることも難しいだろうと思う。
 
 そもそもアメリカの経済力は衰えているのかと考え、各国の名目GDPの変化を調べてみた。まずは日本がバブル経済の中で阪神淡路大震災やオウム事件の余波がありながらも経済力は強固であった1995年の値から先進諸国とアジアの主要国をピックアップした。元データはIMFでありGDPの単位は10億USドルである。
 
順位 名 称 名目GDP 占有率 備考
1位 アメリカ 7,664.05 24.9% G7
2位 日本 5,335.58 17.3% G7
3位 ドイツ 2,594.37 8.4% G7
4位 フランス 1,611.20 5.2% G7
5位 イギリス 1,320.62 4.3% G7
6位 イタリア 1,171.51 3.8% G7
7位 ブラジル 786.48 2.6% BRICS
8位 中国 736.87 2.4% BRICS
9位 スペイン 612.41 2.0%
10位 カナダ 604.03 2.0% G7
11位 韓国 556.45 1.8%
13位 オーストラリア 379.37 1.2%
14位 インド 366.60 1.2% BRICS
15位 メキシコ 343.81 1.1%
17位 ロシア 336.82 1.1% BRICS
20位 台湾 279.27 0.9%
22位 インドネシア 244.23 0.8% ASEAN
26位 タイ 169.28 0.5% ASEAN
27位 南アフリカ 155.46 0.5% BRICS
29位 香港 144.65 0.5%
39位 マレーシア 95.40 0.3% ASEAN
40位 シンガポール 87.89 0.3% ASEAN
41位 フィリピン 82.12 0.3% ASEAN
64位 ベトナム 20.80 0.1% ASEAN
105位 ブルネイ 5.26 0.0% ASEAN
118位 カンボジア 3.44 0.0% ASEAN
135位 ラオス 1.88 0.0% ASEAN
137位 モンゴル 1.70 0.0%
(ASEAN 小計) 710.3 2.3%
世界合計 30,810.21 100.0%
 
 この頃の日本は世界の17%を占める巨大な経済大国で、中国は日本の1/7程度を占めるに過ぎなかった。ミャンマーの統計は出されていないが、ASEANの9ヶ国を合計しても世界経済の1/40以下の存在であった事が解る。上位6ヶ国をG7の国々が占有し、先進諸国と発展途上国の差が大きい時代であり、アジアの途上国には政情の不安定さや治安及び電力事情の悪さも工場進出は殆ど無かった頃である。
 
 それから20年が経過した2015年のデータを調べ、20年間の成長率を計算してみると驚きの結果になった。
 
順位 名 称 名目GDP 占有率 成長率 備考
1位 アメリカ 18,036.65 24.5% 235% G7
2位 中国 11,181.56 15.2% 1,517% BRICS
3位 日本 4,124.21 5.6% 77% G7
4位 ドイツ 3,365.29 4.6% 130% G7
5位 イギリス 2,858.48 3.9% 216% G7
6位 フランス 2,420.16 3.3% 150% G7
7位 インド 2,073.00 2.8% 565% BRICS
8位 イタリア 1,815.76 2.5% 155% G7
9位 ブラジル 1,772.59 2.4% 225% BRICS
10位 カナダ 1,550.54 2.1% 257% G7
11位 韓国 1,377.87 1.9% 248%
12位 ロシア 1,326.02 1.8% 394% BRICS
13位 オーストラリア 1,225.29 1.7% 323%
14位 スペイン 1,199.72 1.6% 196%
15位 メキシコ 1,143.80 1.6% 333%
16位 インドネシア 858.95 1.2% 352% ASEAN
22位 台湾 523.01 0.7% 187%
27位 タイ 395.30 0.5% 234% ASEAN
33位 南アフリカ 314.73 0.4% 202% BRICS
34位 香港 309.24 0.4% 214%
36位 マレーシア 296.28 0.4% 311% ASEAN
38位 シンガポール 292.73 0.4% 333% ASEAN
39位 フィリピン 292.45 0.4% 356% ASEAN
50位 ベトナム 191.45 0.3% 920% ASEAN
72位 ミャンマー 62.88 0.1% - ASEAN
83位 マカオ 46.18 0.1% -
111位 カンボジア 17.79 0.0% 517% ASEAN
123位 ブルネイ 12.93 0.0% 246% ASEAN
125位 ラオス 12.56 0.0% 668% ASEAN
126位 モンゴル 11.72 0.0% 689%
(ASEAN 小計) 2,433.32 3.3% 343%
世界合計 73,496.41 100.0% 239%
 
 中国が15倍以上の成長で一気に2位に成ったことより、日本がドルベースにした場合に経済力が23%も減少している事は何よりの衝撃である。アメリカ合衆国は世界の占有率を余り変えずに1位を維持している。製鉄や自動車といった工業に衰えはあるだろうが国力は堂々としたものであり、保護主義に走るべきでないことは明確である。
 データだけを見れば日本こそが保護主義を打ち出すべきであるように見えるが、日本が成長する代わりに中国やASEAN諸国などに生産拠点が移転し、その国の経済力が高まってきた結果として近年のアジア人旅行者が大量に日本に来る時代が生まれていると私は考えている。
 日本に来れば祖国の何十倍も稼げるからと密入国で不法労働をする事より、祖国でもそれなりに稼げる仕事がある世界の方が良いことは明かだろう。メキシコもアメリカやカナダが240%程度の延びを示すことに対し333%の成長が出来たのだって北米自由協定の結果であり、アメリカとの経済格差は縮小する方向に向かっていたはずである。自国だけが良いという短期的な判断は国際社会に歪みを増やす結果に成るだろう。
 
 さらに考えるべきは、例えば日本から工場が海外に移ったことで日本人の働く職場が減っているとしても、残った中小企業の工場で求人をかけても人が集まらない現実があることである。農業や建設、福祉等の現場で深刻な人手不足が続いている状況で有りながら、工場を日本国内にと言っても説得力がないことである。多分、アメリカでも同様で、その不足を補っていたのが不法移民であったという事に目を瞑っても解決には成らないだろう。
 
 韓国・台湾・香港・ブルネイといった20年前から豊かさを享受していた国々は世界全体と同じ様な延びであるが、ASEAN諸国は著しい経済成長で、特にベトナムの920%やカンボジアの517%という数値には感動すら覚える。私も自分の目でそれらの国の都会では既に先進国の都市と大きな違いがないことを確認している。
 日本は日本第一主義に成ることなく、アジア諸国と供に成長を続け、アジアの隣人が豊かに成っていくことを見守るような国家でありたい、と大統領就任演説を聞きながら考えていた。