労働不足の時代を思う
2018/05/20記
 清見台公園の近くに「正凛亭」という中華料理店があった。個人的に香辛料が効いた麻婆豆腐が好きで時々ランチを食べに行っていた。ランチセットの金額が安いものでも880円と低価格を売りにしている店では無かったが、その味に惹かれて何時も多くの客が溢れ、時には待たされることもあった。その様な人気店であったが人手不足が原因で先日の日曜日の営業をもって木更津店は閉店となったのだ。
 多くの産業で企業が黒字、店は繁盛でありながらも人が集まらず、やむなく廃業している事態が生じていると聞いていた。今回はまさにその現場を見たようである。もっとも、正凛亭の場合は本店の富津店は引き続き営業されているようなので、どうしても麻婆豆腐が食べたくなれば本店に行くことで解決できる事が有り難い。だから残念ではあるが悲しまなくて済むのだ。
 
 さて、その正凛亭木更津店が店を閉めた日と偶然同じ日にNHKが「縮小ニッポンの衝撃 労働力激減 そのとき何が」と題した放送をしていた。現在の人口推計では、2045年には人口が1億人を割り込み、人口ピラミッドは70歳を頂点とした五角形の「棺桶型」となってしまう事に世界中の多くの学者が注目しているようだ。
 何故なら、生産年齢人口(15-64才)は2008年のピーク時より約3500万人も減少する中で、どの様に難題を解決するか、これから高齢化を迎える諸国のモデルが日本に成ると思うからである(この考え方はNHKでは放送していない)。
 労働力の不足を高齢者や外国人が不足を補うことで生じる問題を放送では提示していた。その中では、シルバー人材センターで派遣労働が拡大し、若者が敬遠する3K職場を担う中で事故が増えていることや、ベトナムのような安価で優秀な外国人の争奪戦が生じている事など、今後の日本に生じるであろう問題点を挙げており、衝撃を持って映像を見ていた。
 
 高齢者と外国人以外で求められているものが若い女性の活躍であり、企業に囲い込むことで結婚が遅くなり少子化に拍車を掛けている負のスパイラルが生じている点は否めない。それでも人材不足による企業活動の停滞と云ったダメージを減らすため、かつては子育て期間は家庭に収まっていた婦人の社会進出が求められ、その結果として待機児童問題が生じている。
 木更津市では順調な人口増加が続いているものの、三井アウトレットの増床といった労働需要の増大も見込まれ、今後も当面の間は保育需要の減少は見込めない。保育士が一人増えることで1歳児を抱えたお母さんが6人社会で活躍することが出来るのだ。その点で保育需要に対応することは保護者の要望だけでなく、経済界からの期待に答えることにも成るのである。
 ただ、家庭に残っていたお母さんは子育てだけではなく、親の介護や地域社会活動の一翼を担い、炊事洗濯清掃といった家事全般も担っていた事を忘れてはいけない。家事の多くは電化で楽になってきているだろうが、炊事の代わりに外食や弁当等の需要が広がり、介護は公的サービスの増大となり、地域社会の繋がりは弱くなるばかりである。
 地域社会では、定年後も働き続ける人が増えたことで役員の成り手が減って困っているという話も聞く。これは高齢者が企業の中に囲い込まれていることの弊害といえるだろう。
 
 人工知能(AI)の発達により、将来的には人間の行う仕事は減ってくると予測した学者が居た。工場ではロボットによる自動化が進む事で生産性が高まって、必要な労働力は減っている。そもそも人口が減少する社会は需要も減少するので労働は余るだろうという考え方も聞いたことがある。現に供給体制の変更や技術革新によって需要が減少した事による本屋やガソリンスタンドの減少は依然として続いている。今回のNHKスペシャルでは労働需要が減る側の視点が無く報道されていた事も念頭に置かねばならない。
 
 岡山県津山市では労働力不足を埋めるため、行政が積極的にベトナム人の誘致を進めている事も報じられていた。日中韓台の東アジアでは今後の人口減少が予想されるが、ベトナム・フィリピン・タイ等では人口増加が続き、若年人口が余る事態も想像できるから現在の需要を元に考えれば妥当な判断とも思えるが、労働需要が一気に減少する局面を迎えた場合、速やかな帰国支援を行うことが出来ず、地域社会との一体化に失敗していたら社会的な問題が生じる事は容易に想定できるのだ。
 それでも、今後経済活動が活性化するアジアとのパイプを太くすることは必然であり、その意味で海外に友好都市を持つことは評価されるべきだと考える。そのパイプを使って木更津の子どもたちを国際人に誘うことや、当面は絶望的に不足する福祉人材を集めることなどは積極的に展開するべきだろう。しかし、どこまで拡大して行くべきか、簡単に答は出せそうもない。
 市内で事実としての人手不足による閉店を見ながら、今後の経済状況をどの様に読み、自治体としても、どの様に振る舞うべきなのかが問われている事に気付かされたのである。