不在地主を考える
2020/03/07記
 全国市議会議長会から都市問題に関する特別委員会で検討するテーマについて何かあるかとアンケートが届けられた。
 当該委員会では令和2年度「自治会・町内会の縮小、解散問題」、令和3年度「商店街の疲弊の振興」、令和4年度「外国人の増加に伴う地域の諸問題」、令和5年度「鳥獣被害の深刻化」、令和6年度「高齢化単独世帯の増加に伴う問題」が既に決まっており、令和7年度以降の研究となると、劇的に進む少子高齢化や地球温暖化等の影響で社会情勢がどの様に変化するか想像できないこともあり、アンケートに答える難しさを感じたが、一方で最近感じている事があるのでそれを記載させていただいた。
 
 提案したテーマは「不在地主の土地所有権」である。
 
 バブル全盛のころ土地投機を目的として地域に居住せず何らの権利関係も持たない方が購入した土地の多くが現在では管理不全の状況となり害獣の住処と成っている。また、道路等の公共事業を進めようとする場合は居住していない地権者は不便を感じていない事も有り、現状とは桁が違うバブル期の単価を示し用地交渉が進まない状況にある。
 国会では所有者不明土地が国土利用の妨げに成っている事を重く見て、平成30年通常国会で「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」を成立させた。一方、不在地主は所有者が明確であるため当然特措法の対象ではなく、財産権の尊重の原則に従い今までと同様に交渉によって対応を進めるしかない。しかしながら居住者ではないため地域に生じている弊害には関心が薄く、地域の環境改善の足枷に成っている。
 例えば農業人口の減少に伴い農地の集約を進める場合にもその様な土地の存在が支障となる。更には農村部で協同事業として行っている水路清掃や道普請といった作業にも当然参加しないだけでなく、当該所有地から伸びてきた雑草や樹木が大きな支障となっている。農地を相続した親族が地元に住んでいない場合にも作業への協力を得ることは難しいが、その様な場合の多くは土地の管理が行き届いており、この様な問題になることは少ない。
 公共事業の場合は土地収用法という制度の活用が有るが、伝家の宝刀と言われるほど適用が難しいのが現状である。そこで、この様な事例の土地については、例えば第3者委員会が適当と判断した近隣の土地と等積交換が容易に行えるような法制度を整えることが望まれる。
 
 木更津市での公共事業での具体的事例としては、数年前から事業中の中野畑沢線桜井工区がそれにあたる。一時は区画整理の計画があったため、土地の値上がりを期待してバブル期に当時の住宅地並みの価格で山林や畑地を購入した東京都や神奈川県等に在住する地主が、周辺を山地のまま開通させる道路に対して、山林や畑地での評価額(購入価格の数十分の一から数千分の一と推定される)での買収に応じようとしないのである。
 当該道路は畑沢や港南台といった波岡西地区と市街地を結ぶ重要な路線であり、開通要望は高いものの、不在地主は開通しようがしまいが自分の生活に関係ないので積極的に協力しようと言う気には成っていない。
 一方で購入時とはかけ離れた安さで売却すると潜在的な損失が顕在化するので抵抗があるという心理には同感できる。従って事業用地に購入した土地の残地を不在地主の土地と交換することで不在地主が権利を維持できるような制度を容易に使える法制度が有ればと思うところである。同じ地目で有れば同じ面積で交換すればよいし、畑地と山林を交換する場合は価値が同じに成るように交換すればよい。前者を等積交換、後者を等価交換といい区画整理では一般的な手法であるし、道路公団に居た頃は用地交渉で一般的に使われていたのであるが、弱点は交換する双方の同意が必要となることである。
 今回の道路事業の場合、高く販売できる可能性が希薄な同じ価値の土地が欲しいのではなく、道路用地に当たった事を絶好のチャンスと捉え、損失を出来る限り少なくするような高額を提示し、それで同意できなければ売らなければ良いだけと考えているであろうことは容易に想像できる。
 従って公共の事業者が双方の同意が無くとも土地を交換できる法制度を用意してもらいたいというのが研究テーマに期待する趣旨である。対象となる土地は所有者の居住地と離れた場所の現状で活用されていない土地に限らないと、例えば自宅の裏山が大規模な開発をされる事を防止する手だてが無くなるので問題であると考える。そのため不在地主に限定する制度とするべきである。公平性を担保するための第3者委員会が必要であり、対象地権者の異議申し立てを認め審議するような救済措置も必要であろう。
 
 木更津市だけでなく多くの自治体が同じ悩みを抱えているだろうし、それが用地交渉の長期化と事業費の高騰に結びついている事も想像できる。それが多くの国民に強いる悪影響を考えると公共の福祉のために必要な対策であると考え、提案を行うと共に自分のHPにも背景を整理するために記載した次第である。