知的財産権を思う
2021/05/07記
 今月11日までの予定で東京都・大阪府・京都府・兵庫県を対象に発令されていた緊急事態宣言は、12日から愛知県と福岡県を対象に加え1都2府3県は今月末まで続けられることが決まった。
 それに伴い蔓延防止等重点措置の対象から愛知県と福岡県が抜け、新たに北海道、岐阜県、三重県が加わるものの、感染の押さえ込みに成功した宮城県が当初の予定通りに11日で期間終了を迎えることになった。従って緊急事態宣言と同様に今月末まで措置が続くのは千葉・埼玉・神奈川・愛媛・沖縄の5県と新規に加わる1道2県である。
 
 今月末まで接触を減らすことで感染の拡大を防止しながら重症化しやすい高齢者に対するワクチン接種が計画通りに進むことで入院患者が減り始め、最も危惧される医療崩壊は防げることになるというシナリオが理想的であるが、実際にはワクチンの充分な供給が進むのか心許ない上に、それだけ多くの接種は前例がないだけに今後も各種のトラブルが出てくるだろう。
 またごく一部の方は接種によって深刻な副反応が生じることだろう。難しいことは副反応を恐れてワクチンを打たなかったことで感染し、コロナの後遺症が残るリスクと比較することが困難なことである。ただ明確なことは、感染の状況を抑えなければ医療機関や保健所の負荷は減ることが無く、さらに今後もウイルスの変異が続くことでワクチンが効かない株の発生する可能性も否定できない事である。
 
 後者のリスクを抑えるためには日本国内や先進国だけで接種が進んでも駄目で、世界中の感染を抑えきり、天然痘のように試験管の中だけに残る状況にしてしまうことが理想である。そのためには発展途上国にも速やかにワクチンが行き渡るようにすることが重要であり、製薬会社が持つワクチン製作のノウハウを公開し特許を無償化することで世界中で生産できるようにする事を求めるべきである。今回アメリカのバイデン大統領がワクチンの特許保護を一時停止するとしたことは高く評価しているのであるが、製薬会社を中心に知的財産は技術革新の源で、それの保護を行わないことは認められないと反対の声が挙がっているようである。
 
 ワクチン開発には多額の費用が必要であることは理解できるが今回のパンデミックのように世界で同時に進めなければ成らないものについては国際社会が正当な報酬を与えることで特許をフリーにするようWHOを中心に取り組んでほしい。
 世界から感染が無くならないと国境を越えることが難しくなり、その結果として経済の回復が遅れる事態になれば特許権に正当な報酬を与える方が安上がりになると理解できるだろう。
 
 同様に知的財産権が設定されるものに食料がある。多国籍企業がDNAを解析して「発見」したものに特許を設定し、本来なら農産品は子孫を残して持続的に営農できるはずのものが禁止され、毎年多国籍企業から種子を購入しないと違法になるという種子法改正が日本でも行われた。
 日本では公的な農業試験所があり安定した食料供給を目指した品種改良を進めるなかで数多くの米の品種やイチゴなどが作られてきた。知的財産権の名の下に企業の利益に独占されるような農業は今後の大きな課題となりそうである。
 そもそも「発見」するまえから遺伝子は存在していたものであるが、資金が豊かなものがDNA分析を行った結果として独占するような事態になることを正当化してもよいものだろうかと思う。
 
 全ての知的財産権を開放すると、安価で品質の悪い模倣品を大量に作成する企業が現れ、開発した企業の経営に影響が出ることも想像されるので全てを否定するものではないが、アメリカ型グローバル主義は企業の利益があまりに優先され、企業を含む社会や世界をどの様にデザインしていこうかという理想も感じられず、ましてや「売り手によし、買い手によし、世間によし」という近江商人のような哲学も見られない。貧しい国々からアメリカに対する怨嗟の声が聞こえてくることも仕方がない部分も感じられる。
 企業が独占することを認める知的財産と、公共のために独占を認めるべきでない知的財産の仕分けを行い、世界の秩序を守っていくべきではないかと思いながら今回のメモとする。