東欧の戦場を想う | ||
2022/05/01記 | ||
ロシア軍がウクライナに侵攻して今日で66日が経過している。核兵器を所有する大国の横暴を抑える有力な手だてが無く、国連の仲介が有ってもマリウポリからの民間人避難が進んでいない。 それでもロシアが占領した地帯での残虐行為が公開されたことでNATO諸国はロシアの侵攻を今まで以上に防がねばならないと考えウクライナ軍に対して重火器を大量に貸与し始めた。 プーチンの認識ではウクライナはロシアの一部であるようだが私の読んだ本ではキーウがルーシ(ロシア)の中心であった歴史は長くてもウクライナがモスクワに従属したのはソビエト連邦が誕生して、小ロシアと位置付けられてからだと知った。なおクリミア半島をウクライナが占有した歴史も殆ど無く、1954年にソ連内の国境を整理する際にウクライナに着けられたことも知った。2014年に獲られてもそれほど激しい反対が生じなかった理由も解った。 日本は千島樺太交換条約の対象でなかった北方領土は日本国有の領土でありロシアに違法占領されている状況だと主張している。日本人にとっては理解できる論理であるが、国境が頻繁に変更となり、ましてウクライナという独立国家は1917年から1920年までの間に存在しただけで1991年の再独立を果たすまでソ連の一部となっていた(ただし国連ではソ連とは別に議席を持っていた)状況の中で固有の領土という提議は東欧では解りにくいだろう。 さて、そのウクライナが西側に近づくことを阻止するために始まった軍事作戦であるが、この事態を見た近隣諸国は安全保障の枠組みが必要だと考え、北欧では軍事的には中立を守ってきたフィンランドとスウェーデンがNATO加盟に向けた準備を進め、旧ソ連の構成国であったジョージアとモルドバは3月3日に欧州連合への加盟を申請するなど、プーチンの思惑と逆にロシア警戒が東欧で加速している。 ロシアは今世紀に入って近隣国に多くの軍事介入を行っており、ウクライナのクリミア半島を2014年に奪取する前にも2008年には約400万人の人口を有するジョージア(別名グルジア)の中にあってロシア人が多く暮らす地域の独立を支援し、約24万人のアブハジア共和国と約5万人の南オセチア共和国を武力で独立させた。国際的には承認されていないもののロシアと幾つかの国は国家として承認しており、今回の侵攻も同じ流れなの中で起こしたのだろう。ロシアにとって軍事力の使用は通常の政治の一部であり、今回のように非難が高まることは想像していなかっただろう。 また、そんな流れの中で今度はウクライナとルーマニアの間にある約400万人の人口を有するモルドバの中にも約48万人が居住する沿ドニエストル・モルドバ共和国(別名トランスニストリア)というロシアが承認する「国家」があり、そこにはロシア軍が駐留している状況であるが、ロシア軍の高官からはそこまでロシア軍を侵攻させ迫害を受けているロシア人を救出するというような話しも聞こえてくる。この文脈ではロシア人が居るとロシア軍が侵攻する危険性を招いてしまうため、善良なロシア人でもロシア以外の国に居ることがリスクになってしまい、追放が進むのではと危惧される。 モルドバはルーマニア人の国であり1940年にルーマニアからソ連に割譲された国である。そのため独立後に制定した国旗もルーマニアと同じ色調である。 1991年に独立し、1994年にはルーマニアへの再統合の是非を求める国民投票が行われたが圧倒的多数で独立国の道を選ぶことが決まったようだ。しかし私が彼の国の政治家だとNATO加盟国のルーマニアに吸収してもらいロシアの脅威から自らの国民と国土を守る道を選ぶのではないかと想像している。 アメリカの高官はロシア軍の弱体化という発言を行って批判を招いているが、チェチェン独立派の支援やバルト海に面した飛び地のカリーニングラードの接収などのような計画を進めると流石にやりすぎだと批判されるだろう。さらには約百年前のシベリア出兵のように世界がロシアへ干渉する事態を招くとは思えないが、それでもウクライナの戦闘が長引いた場合、広大なロシアの中で少数民族の独立運動も激化するかも知れない。さらにはウクライナ人が多く住んでいる極東地域でロシアからの独立運動が発生し難民が多数生じた場合に日本はどの様な対応を執るのかなど、事前に様々なことを想定するべきであろう。 本日はメーデーで、労働者の式典が多く開催されている。ソビエト連邦は労働者の国と歌いながら共産党幹部の天国になって国家が停滞し解散された。今ではその構成国同士で戦争が行われ徴兵された若者が闘いの意義を見いだせないまま死んでいく。 情報通信機器が整備されAIが発達しても、依然として人間の行うことは進歩していないと感じながら、近くの国でも同じような事がおきないことを願い、遠く東欧の戦場に想いを送るだけである。 |