少子化対策を思う
2023/01/25記
 正月休みも終わり国会では論戦が開始された。岸田総理が今年の目玉政策に出したことが「異次元の少子化対策」である。安倍内閣が日銀の黒田総裁とともに行った異次元緩和を思すが金利の上げ下げで景気を調整するように、何らかのファクターで出生率を上下することは困難だろうと私は感じている。
 少子化に対して麻生副総理が発言した「少子化は晩婚化が原因だ」という発言がマスコミに批判されているが現象だけを見れば正論だと思う。学術的には同じ年齢の夫婦が生涯に何人の子どもを生むのか過去から系列的に数値と原因を調べる中で、男性の精子が減少するなど生理的な変更で妊娠率が下がっているとか、夫婦間の営みが減少して妊娠機会が減るなど、必ずしも晩婚が原因でないことも明らかになると思うが、単純に考えれば結婚年齢が若い方が出産機会が多くなり子供は増えるからだ。
 因みに我が家は晩婚の典型なので、妊娠が出産に繋がる比率も下がり、一人娘の家庭になることがほぼ確定してしまった。人口減少に歯止めを掛けなかったので議会で人口施策を質問することが心苦しいが、それも公務なので割り切ってやるしかない。
 
 さて問題は晩婚化になる原因であるが、女性の社会進出と評価が進み管理職への道が広がったことに伴い昭和時代ならば結婚を機会に「寿退社」が一般的であったことが、今では定年まで勤めることが珍しくなくなったことが表層の原因と思う。その背景には親の世話をしない核家族化の進展や家電製品の普及に伴い、女性が家事から自由になって結婚後も仕事と両立することが可能になったこと、さらには共働きを前提としたかのような給与体系が進み大黒柱であった父親の収入だけでは家計を支えることが難しくなるように給与が上昇しなかったことが理由と推察できる。
 
 昭和初期に生まれた私の父は5人の姉弟が成人したが、父が中学校を卒業して仕事を始めるまでは現金の稼ぎ手は私の祖父だけであった。半農半漁の生活で医療費も不十分な状況の中で出生前や直後に亡くなった人も多いようだが祖母は家事と農漁業の手伝いしかしていない。私の祖母が多くの子どもたちを育てる中に仕事の場が求められ、仮に事務処理能力が有ってもオフィスレディになることは難しいだろうと当時の社会背景を思う。
 第二次世界大戦の前に生まれた父の世代は、病気や戦争・災害で子どもが亡くなっても他の誰かが残ることを前提にした多産の世の中で生まれた。今でもアフリカやアジアではその考え方が前提で多くの子どもを産みながら医療の発達で乳幼児死亡率が劇的に下がっていることが人口爆発が進んでいる原因である。
 中国では人口増加を抑制するために一人っ子政策を進めていたが、医療の発達で乳児死亡率が劇的に減ったことに加え、産むだけでなく育てる中で多くのコストが必要な教育を加えることが必要だと社会全体が変質したため、結果として一人っ子政策を止めても人口は減少を続け昨年をピークに人口減少に転じたようだと報道があった。教育熱心な東アジアの韓国や台湾は日本より出生率が低いという現象に現在の中国も直面しているのだ。
 
 学校給食や授業料が無料になれば負担も減るし、出生に伴う奨励金を貰えれば産もうと思う人は増えると思うが、今の終身雇用の体制では出産による休職の評価減は気になるし、何より子育ては乳児のうちに終わるものではないということを私の子育ての中で実感している。祖母の時代には子どもは黙っていても大きくなるもので学校以外の習い事を行うことなど念頭になかったが、今では各種の教室に行くほかにリトルリーグ等の運動団体への加入も当たり前である。私の友人も二人の子どもが社会人に成って、やっと週末の自由時間が確保できるようになったと言っている。
 
 実は私は何も習い事もしていなく塾にも行かず大学受験の時には高校内で夏休みに行っていた勉強会には参加したものの予備校に行ったこともないので、それらに関する批判をするのは正当でないが、早くから子どもに勉強させないと手遅れに成るかのように勧誘する「不安産業」のような教育産業は多く目にする。子どもに補助金などの公金が入れば不安産業が助長されるだけのように感じているのは、多分私の経験が不足しているからだろう。
 
 今朝、私の娘は保育園行事で群馬県みなかみ町に雪国体験に出かけた。多くの父兄が見送りに来たが、子どもが伸び伸びと育っていることが原因なのかは定かでは無いが弟や妹が複数いる家庭が多く、この保育園に子供の居る家庭では我が家を除き出生数が高いと思った。
 何より、この保育園で子どもを育てたいと思い、木更津市周辺で職場を探して移住してきている人たちがいるということを考えると日本中に単に預けるだけの場所ではなく子どもが大きくなることが他の好く成る場所が増えたら子どもの数も増えるのではないかと思うのだ。それは保育園だけでなく幼稚園でも認定子供園でも同じことで子どもの未来に気が着けば仕事と出産の優先順序は変わるような気がする、と考えるのは私が男だからだろうか。
 
 少子化のもう一つの大きな問題は小泉内閣の時代に行った労働改革で生じた膨大な非正規雇用者の発生であろう。仕事を求め会社が用意した寮を渡り歩く工場労働者は低賃金で就労の場所も安定せず、その様な生活に疲れると自宅に帰って引きこもりに成るなど、社会から阻害され、再び社会に適合するまでに多くの時間を費やしてしまう。その多くは生涯独身のままであり家庭を築くことが難しい。当然、子どもは産まれず少子化が進んでいく。子育ての助成を受けることがない独身者への対策も重要だと思うのだ。
 
 政府の進めている異次元の施策も必要だと思う点は多いが、自分の仕事に支障が生じても子どもを産み、その子の成長していく過程を一緒に楽しみたいという思いが出生率の向上に繋がっていくのではないかと思いながら、寒風に吹かれて考えていた。