富津市の図書館で
2023/05/02記
 木更津市は吾妻公園内に建設を予定している文化ホールの中に老朽化している図書館を併設した複合施設として整備する方針で検討が進んでいるが、運営方法としては直営で行くのか指定管理制度を採用するのかが明確に決まっていない。図書館整備計画が年末に意見公募されたので市民の一人として具申したが返答もないままである。計画を読み今までの市議会での答弁も加味すると直営で行きたい方向性を感じるが、その決定過程が見えてこないことは問題だと思いながら6月議会で質そうかと考えている。
 
 その様な気持ちの中で富津市が市立図書館をイオンモール富津の中に先月1日から供用開始した。運営は直営ではなく指定管理制度を採用して株式会社図書館流通センター(TRC)である。
 かつて富津市は国内で図書館のない数市に数えられ、市民要望も多くて課題であったが人口減少が続く中で財政が逼迫して計画を立案したものが実行できなくなっていた。イオンモール富津からの提案を受けて数年前から整備が行われていたものである。
 
 イオンモール富津は扇屋ジャスコがキーテナントとなって房総半島のバブル崩壊が顕著になる前の1993年9月25日に開業した。近くでは青木土地区画整理組合が造成工事を進めており、他にも市内で多くの区画整理による開発計画が進んでいる頃であり、私も1991年8月から1年半ほど藤倉電線鰍フ大堀社宅建築工事に関わっていたので富津市に勢いがあった頃だと感じていた。しかしバブル崩壊が直撃して地価は下落し、想定していたような人口増加が生じ無いどころか人口流出が人口減少に拍車を掛け、国勢調査では1985年に56,777人のピークを迎えた後は右肩下がりを続けて2020年では42,465人となっていた。特に少子化は顕著で特殊合計出生率は2001年以降は人口維持を必要とする2.1から大きく乖離した1.1前後で推移しておりかずさ四市で最少である。
 その結果、イオンモールの売上も勢いが無くなり上層階では空床が目立つ状況になっており、それを埋めるかのように行政のブースも出来ていた。今回の市立図書館も10万円/月という破格の安さで約1,450uを借用すると聞くが、元はユニクロの店舗が入っていたところで、イオンモールにとっても集客が期待できる図書館を入れることは他の店舗の売上を押し上げるだけでなく社会貢献にも成るので良い判断だと個人的には思っている。現に図書館の貸出券を提示すると商品が安くなるテナントも有るなど商売に直結させて活性化を図ることは民間の知恵だと感心する。
 
 
 図書館の中の状況も商業施設の通路から見渡せるようにデザインされており、入口前の空間も近寄りやすい設計をされている事には感心した。
 新聞報道によると昨年度には施設整備やシステム整備・図書購入などで約2億5千万円を投入し、今年度以降は運営経費として年間7千万円から1億1千万円程度と見込んでいる様だ。木更津市の市立図書館に計上された今年度予算は3,863万円なので商業施設の利用に伴う維持管理費が多く掛かるのだろうと推察する。
 
 空間デザインは好感が持てるものであるが蔵書が少ないようにも感じる。しかし、持論としては各市が蔵書を持つのではなく図書館行政も広域化してベストセラーを逐わない書籍の充実を諮るべきだと考えているので、リクエストに応じて各市から調達する体制を期待したい。
 狭いながらも郷土図書コーナーも設けられ、古墳が多い富津市をPRしていた。図書館の可能性として市のイメージ向上や子育てに寄与することも考えているように見受けられたが、木更津市で既存図書館を児童館的に持続させる専門的な指向性までは感じられなかった。私的な趣味だけで言えば袖ケ浦や君津の巨大な図書館より立ち寄り易さを目指している方向性は間違っていないと思う。
 
 少し前のNHKスペシャルで健康寿命を延ばすなら図書館を充実させることが解決策だと人工知能が答えていたが、市民の知的好奇心や意欲が落ちないために存在する公的機関として図書館を位置付ける視点は重要だろう。富津市で図書館が出来た結果を定量的に捉えることは難しいだろうが、今後の成果を見守りたいと思っている。そして何より木更津市の図書館行政の方向性を改めて確認せねばと考えてきた短い旅であった。