業界誌に投稿する
2023/12/28記
 現在は市議会議員としての責務が主たる任務になっている私であるが、基本的には建設技術者が本職である。道路公団を辞めて木更津に帰ることで全国のトレンドに乗り遅れる恐怖感を覚え、その頃創刊したばかりの「日経コンストラクション」を定期購読して既に30年以上が経過しているように感じている。
 先日、読者アンケートがあったので思っていることの一部を記載したところ、それが12月号の読者欄の記事になって記載された。ゼネコンに務めた友人からは見たという評価が寄せられたが、それ以外は沈黙が続いているので、敢えてHPに記録を残したい。
 
若手不足の解消には教育機関の変化が必要
 
 近藤 忍(59、市議会議員)
 
 地方における若手土木技術者の減少に危機感を抱いている。
 私は地元の市議会と水道企業団で議員をしている。2023年6月に企業団で中途採用の技術者を5名(土木2人・電気3人)募集したところ採用出来たのは電気1人だけだった。
 今は企業団を構成している四市と県から技術者が出向することで運営できているが、各自治体も新規技術者を十分に採用できているわけではない。現在、企業団で働く技術者の多くは50歳前後で、新規の雇用が遅れれば技術を継承ができなくなりかねない。
 一方、18年に改正水道法が成立し、水道事業の民間委託が可能となった。国民の間では民営化されれば水道料金が値上げされるのではないかとの不安の声が上がる。企業団として現時点で民営化は考えていないが、技術者が減れば水道事業の運営が難しくなる。そうなれば民営化も考えざるを得ない。
 そうならないために若手の確保をと思うが、工業高校や大学で土木を学ぶ若者が減り、数少ない学生も卒業後は別の業界に進むことが多い。若手技術者の不足を解決するには、土木の重要性ややりがいをしっかりと伝えられるように教育機関を変えていく必要があるだろう。
 
 生活が安定しているといわれる公務員でも一般行政職の競争は激しいものの、技官の採用には苦労している状況である。企業団も県と同等の給与体系でありながら募集が少ないのは、県からの出向者が幹部職員を独占しており、昇進に希望が持てないので有れば企業団や企業団議会に責任がある。優秀な職員を幹部に採用し、責任有る地位に任用する実例を示すことが重要な対処の一つでもあると思う。
 
 しかしながら、上記の記事に記載しなかった大きな問題点は、民主党に政権が移動したときに新聞各社が褒めたたいた「コンクリートから人へ」というスローガンにもあると私は思っているのである。
 欧米の先進国に比べ建設に賭ける費用が大きい、特定財源で無駄な道路を造っているというキャンペーンが展開され自民党を政権与党から転落させる中で、その当時の若者が土木技術を選ぶより情報処理を選ぶことの方が将来性があると考えることは当然であると思うし、それは現在まで続いている。
 特に感染症が蔓延する中でもリモートワークが難しい職場の一つにインフラを維持する土木系の職種が多く加わっているし、私が若い頃に言われていたのは全労働者の1割を占める建設技術者が全労働災害の5割を占めているというように「危険・汚い・きつい」という3K職場であるということも広く認識されるようになっている。
 
 峠をトンネルで抜け谷や海を橋で渡ることで地域の移動を容易にして経済発展に繋がるような地図に残るような大きな仕事や、上下水道の整備を通して生活環境を維持するような仕事が土木工学であり、英語で表現するとCivil engineeringとなり、直訳すると市民工学である。
 この仕事は地形や地質等に応じたオーダーメイドの作品造りであり側溝や管路などが製品に成り普及されているとしても大量生産が不可能な条件が当たり前である。仕事も夏の暑さや冬の寒さを身体で感じる厳しさはあるが、出来上がったときのスケール感は他の産業では経験が難しく、それだけに達成感は半端ない。
 同期の何人かは「黒部の太陽」を見て土木技師を選んだように、厳しい条件を克服して人々の役に立つ仕事がしたいと思ったようにモチベーションを高めることが重要である。給与や待遇の改善が重要であることは言うまでもないし、市の職員では事務をこなすだけの一般職より専門知識を駆使して仕事をしながら事務もこなせる技官を優遇するべきだという気持ちも抱えている。
 
 掲載された背景を説明するために長い文章となったが、優秀な技官を維持できない社会は、明日の生活を誰かに握られる社会になるのだという危機感を持つべきだと警告する記事なのでもある。