リニア延期を思う
2024/04/02記
 先月29日に、JR東海の丹羽社長が品川〜名古屋間のリニア新幹線について当初最短で2027年の開業を目指していたものを断念したと発表した。早くても2034年以降にずれ込むということなので私が乗車できるのは70歳を越えてからということになるようだ。
 
 その長さと膨大な土圧で最も難工事が予想されていた南アルプストンネル工事は、着工前に環境アセスメントに示された大井川の流量減少に対して単に通過するだけの静岡県が許可を出さず、工事に着手することすら認められていな状況である。土木技術が進化しているとはいえ、地下の状況は掘らねば解らない所も多く、黒部ダムのように熱水帯や破割帯に遭遇すると工事が停滞することも予想され、更にはリニアモーターというシステムが要求する精度や必要とする資材設置などを考えると2034年でも厳しい行程になるだろうと建設技術者の私は推察する。
 
 品川〜名古屋を40分で結ぶ路線はアクアラインを経て品川に近接する木更津にも大きな効果を生むと思われ、例えば朝7時のバスに乗れば9時の会議に間に合うなど、名古屋は日帰り圏に成るとともに、今まで関東からは遠い印象が強かった長野県飯田市や岐阜県中津川市にとってはアクアラインの開業以上に劇的な変化が生じ観光開発も進むことであろう。2027年開業を前提にまちづくりを進めていた両自治体や周辺都市及び県にとっては大きな落胆があったと想像できる。
 
 そもそも大井川の源流となる南アルプス間ノ岳より北を通過するルートで設計しておけば、若干距離が伸びることになるが静岡県を通過することが無いため、今回の問題は発生しなかったと個人的には思う。超高速走行なので平面線形に制約が厳しいことも解るが甲府あたりから曲げ始めれば対応できたことだと思うのだ。
 都市計画道路も一旦決めた計画を容易に変更することになると収拾がつかなくなるので頑なに変更しない事例を多く目にする。木更津市でも中野畑沢線の中里周辺で日米安保条約対象基地である木更津駐屯地の一部を買収する必要が生じたり、水路の大規模な改修工事も生じていたが、何故少しだけ東に振るという合理的な変更が出来なかったのか私には理解できない。
 因みに高速道路も路線が200mの幅で発表されるとそれを外れて設計することが基本的には難しくなる。工事の途中で崩壊性の斜面であることが解っても移動できず、巨額の対策工法が必要となる。ただし道路用地の文化財調査で貴重な貝塚や古墳が発見されて現位置保全となった場合は地面を固めきってトンネルを施行することになり、中央分離帯に施行する壁の分だけは若干線形が変わる事例を幾つか聞いている。
 
 問題が生じる前に基本計画の段階で話し合い、最良の方向が見つかってから建設位置を定め、詳細設計に入れば良かったのにと思うし、規模はまるで違うが中野畑沢線の中央工区が進まなくなったことも似たような状況である。とかく計画が決まっていると頑なに進めることは時間も費用も失うものが多いと感じている。
 
 リニア新幹線で気懸かりなことは、全て事業費を民間企業であるJR東海が負担しているため、開業の遅れは収入の無い時期が長く続くことになるので企業としての体力が持つかどうかという点である。東海道新幹線の料金を高くして収入を増やすことも対策としてはあるだろうが影響も大きい。建設を鉄道建設公団のようなものに任せ、開業後の収入で返済するという手法も検討されるだろうが、その手法は国鉄が巨額の赤字を累積する原因になったもので心配だ。JR東海の救済を前提とした時期での発表になり税金が投下される事態も想定できる。この国のプライマリーバランスは悪化していくのだろうか。
 
 南アルプスの工事が遅れるので有れば品川〜仮称山梨県駅、仮称長野県駅〜名古屋といった部分開業を目指していただきたいとも思う。神奈川県相模原市や山梨県甲府市では品川との時間距離が無くなることで生活スタイルが変わるだろうし、都心通勤者の増加で人口増に繋がればと山梨県民は願っていることだろう。何より早い部分開業を通じて私が時速500kmの営業運転の世界を体験したいのである。とこの様に残念な発表を聞きながら考えたことを思いつくままに記載した次第である。
 
 追記:私がこんな事を書いたこととは関係ないだろうが静岡県知事が舌禍により辞職することを表明した。通常なら表明と同時に辞職となるの所であるが6月議会を待つと言うし、辞職の理由がリニアの延期と表明するに至っては、それを勝ち誇ったように表明する事に激しい違和感を覚えたのは私だけであろうか。