自治体の合理化を考える
2009/01/30記
 29日に(社)木更津法人会袖ケ浦支部のお誘いを受けて、長浦公民館の隣にあるおかのうえ図書館で、『合併しない宣言』を行い全国から注目を集めた福島県東白川郡矢祭町で24年の長きに渡り町長を務めた根本良一前町長の講演を聴いてきた。
 
 合併しない宣言の背景にある、住民サービスに町を挙げて努力してきた自負と強力なリーダーシップが感じられ、参考になることも多かった。職員の自宅を役場の支所に見立てそこで手続きが行えるようにするという画期的な手法はニュースで聞いていたが、公共料金の値上げを殆ど行わず、行政窓口も平日は8時前から18時過ぎまで開き、休日開庁も行っているという事は知らなかった。
 年間30億円の予算の自治体で、人件費を11億円から6億円に削減し、余剰の5億円で様々な事業を進めてきて、職員もついてきてくれている話には羨望さえ覚えるぐらいだ。
 
 この町の特集を行った報道ステーションのHPを抜粋すると『人口約7000人、町の財政の強さを表す指数は、0.23(2001年度)と全国平均0.41を大きく下回り財政は厳しいが根本良一町長の強力なリーダーシップの下、町の行財政改革に挑んできた。2002年、根本町長は財政再建のため公務員の人件費削減を断行。議員の数を18人から10人にカットし年間3000万円の経費削減に成功。(中略)その他、観光協会など補助金見直しで年間約1000万円を削減。「公務員は民間なら1人でやるところを3人半ぐらいでやっている」と話す根本町長は役場改革を行い職員137人を85人に。7年後には50人台を目指すことで年間3億円の人件費削減が可能になる。さらに自分を含む特別職の報酬を総務課長と同額となるよう3割カット。支出を徹底的に見直した結果、2億1000万円の歳出削減を成し遂げた。(中略)歳出の大幅カットという「出口」を制した矢祭町は、「入口」に当たる歳入を増やす計画を実行した。人口1万人を目指し、工業用地を造成、企業誘致を図った。さらに97年に造成した『矢祭ニュータウン』は8割を販売。ニュータウン、企業誘致の成功で、今後5億円の税収が町に入る計算。行財政改革の結果、6億5000万円だった町の財政調整基金(貯金)が12億円と倍になった。(後略)』
 
 この町が行った議員の日当性というのは、職員が市民と接する機会が多いことで直接民主主義に近い運営を行っていることや、町長に大きな信頼がある事で、議会が行政に対峙する必要はないという考えに基づくのかは解らないが、監査的な視点を行う専門職という考えを議員に求めないことで共感が持てない。この事は前にも記載したので、こちらを参照いただきたい。
 ただ、公共料金の値上げなどは血のにじむような努力をして、自分達で解決することが出来なくなった場合まで行うべきではないという姿勢には深く共感するところである。
 矢祭町はその血のにじむ努力が職員数の大幅削減という形になっているのである。
 
 
 さて、その一方で、職員削減に対しては逆の動きを見せて注目を浴びている自治体がある。それは大分県の国東半島の北に浮かぶ姫島村である。人口2,400人余りの離島に村役場の職員が170人も居る事になり、職員一人当たりで住民は約14人である。姫島と矢祭を比べると人口が約1/3で職員が倍なので、矢祭町はおよそ6倍の効率的行政を行っていると言える。参考に木更津市は人口125,600に対し職員1,040人(H20.3末)なので職員一人当たりでは約121人となるので、8.6倍の効率である。効率だけで言えば矢祭町より上であるが、人口比が20倍近くあって大きな差がないことは驚きである。
 
 この姫島村の特徴は公務員が多い代わりに、給与水準は全国で下から2番目で近隣自治体の73%に過ぎないことに有る。この事が最近流行している「ワークシェアリング」の元祖として注目されることになっている。つまり公務員の給与を低くする代わりに公共部門の働き口を増やすことで島の人口を維持する政策を続けているのだ。
 
 姫島村の「ワークシェアリング」は1960年に当時の藤本熊雄村長が働き口の減少で若者たちが都市に移住していくのを防ぐため、公共部門の人員について給与を減らす代わりに数を増やす政策を選んだことが始まりだったという。養殖場・診療所・保育所・清掃センターなど、若者たちが働ける公共業務を大きく増やした結果、人口が急減しているほかの離島の自治体とは異なり、姫島村の人口減少幅は少なく抑えられたようだ。
 この村は、「官から民へ」を主張し公共部門を減らしていく「小泉改革」の当時に、「官ができることは官が」というスローガンで中央政府に対抗し、話題になった。ほかの自治体の公務員と同じ水準にまで給与を上げると働き口が減る、という理由から、近隣4自治体との合併にも反対している村である。
 
 姫島の職員が矢祭町に比べて非効率という事では無いと思う。離島ゆえに村営船の航行に多くの人員(公務員)が必要という特殊事情もあるし、福祉現場では交代制で休暇を取り育児や家族の介護に負担が少なくなるようにするなどの配慮もしていると聞くとそれも一つの良い手法と思える。
 
 
 木更津市では基本的に矢祭型の合理化を目指すべきと考えるが、家庭を守る女性の社会進出を促進する等の手法として姫島村型も平行して検討する必要があるのかもしれない。
 根本前町長の話を聞きながらそんな事を考えていた。