食による街づくりを再度考える
2010/04/02記
 昨年の1月に「食による街づくりを考える」として木更津でのローカルフードの奮起を提案したが、その後テレビでもB級グルメの特集が組まれたり、各地で県内大会が開かれるなど、それなりの盛り上がりを見せている。
 個人的にも各地で様々な物を食べてきたし、知人と色々アイディアを交わすこともあった。さらに今年の元旦の千葉日報の第一面に馬来田の休耕田を使って雑穀を作り始めた知人が載ったり、先日開催された第37回農協総代会資料の平成22年度事業計画設定の中でも『暖地作物(パパイヤ・マンゴーなど)の産地化への取り組みを検討』とか『捕獲した猪豚を食材として利用』等の記載もあったので、新年度を向かえたところでまとめて思うところを記載したい。
 
 地方食の中でも、讃岐うどんや割子蕎麦(出雲蕎麦)のように長い歴史を積み重ねて来た物も有れば、富士宮の焼きそばや行田のフライのように戦後から数十年の歴史の物、沖縄のタコライスや佐賀のシシリアンライスのようにまだ数年の物から、最近のブームによって仕掛け人が創ったメニューも有る。
 普及度で考えても、長崎のトルコライスのように全国的に無名でありながら現地では数多くの店で提供している物も有れば、新潟のイタリアンのようにローカルチェーン店だけで提供している物や、塩原温泉のスープ入り焼きそばのようにごく特定の店でしか食べられない物もある。
 味の点は個人的な評価となるが、秋田県湯沢市の稲庭うどんのように卓越した美味も有れば、(名称削除)のように食べたことを後悔する物もある。『名物に美味い物無し』とは良く聞く言葉であるが、考えてみれば美味くて容易に作れるのなら瞬く間に全国に広がり、地域の名物では無くなってしまうから当然だろう。
 素材の点を考えても、現地の食材にこだわった物も有ればどこでも手に入る食材を使っても独特の調理方法にこだわる物もあり、中には富士宮・横手と供に日本3大焼きそばを自負する群馬県太田市の焼きそばのように店舗数こそ多いけど、素材も味付けも異なり地域を代表する個性が無いという変わり物まである。
 
 太田の事例は日本全国で焼きそばが食べられているのだからローカルフードとは認識されず、街おこしにはつながらないだろうと思っていた。16年前に隣接市に住んでいながら太田市に焼きそばを食べに行こうという友人が居なかったからそう思うのかも知れないし、事情通の友人が『佐野ラーメンや桐生うどんが有名に成ったから焦って焼きそばを選んでしまった』と言った台詞が脳裏に残っていたからかもしれない。しかし、現実にはそれなりに成功を収めているようだ。更に最近では「焼きそばに合うサイダー」なる関連商品まで出していることも太田市へ視察に行ったときに知ってしまい、自分の先入観を恥じるのであった。
 さらに驚かされたのは「TKG」と頭文字で呼ばれるようにもなった「卵かけご飯」である。多分、アレルギーがある人を除けば殆どの日本人が食べているメニューではないだろうか。島根県雲南市の第三セクター「吉田ふるさと村」が平成14年から売り出した卵かけご飯専用醤油の「おたまはん」が200万本を越える売り上げを示したのはまだ理解できるが、岡山県美咲町が平成20年に始めた卵かけご飯中心の定食屋の「食堂かめっち。」が長蛇の列を造ると聞いては、ローカルフードは歴史や個性ではなくアイディアかと思わされるに至ったのである(なお、美咲町は卵かけご飯を日本で最初に食べたとされるジャーナリスト岸田吟香の出生地であるという理由付けをしている)。
 
 今年の初めに日本各地に出かけている知人と飲みながらB級グルメの話で盛り上がり、今はローカルな食材や歴史で勝負するよりアイディアだと言う話になり提案を受けたのが「ソース焼きめし」である。たしかに家庭料理としてはポピュラーであろうが店のメニューには全国的に見かけない。残念なのは富津でインディアンソースを造っていたカギサ醤油が既に無いことであるが、それでも美味しいから言い出したら流行るだろうと思い、知人の目の付け所に脱帽した。
 しかし、その一方で、短期的なブームを乗り越え、長期に渡って求められているのは地産地消、敢えて言えば地産地食だろうとも思うのである。生産者と供給者の顔が見える「食」が最後には集客も保てるのではないだろうかと、希望も込めて思うのである。
 
 疲弊する農漁村と荒れる中山間地。それの解決をローカルフードだけに求めては無理が出ることも解りながら、米と卵だけでも成功した街おこしの事例を考えながら、この地域には海苔や馬鹿貝等の海産物も米も野菜も有り、半野生化した猪豚まで取れる中で何かが出来るのではないかと、他の街でご当地丼等を食べながらいつも思っているのである。