船橋の債権回収を学ぶ
2010/05/20記
 木更津市は大きな財源となる企業の法人市民税や固定資産税が近隣市より少なく、その上バブルの後遺症とも言える土地開発公社の不良資産を買い戻すなど、厳しい財政事情が続いている。
 本予算はもちろん、補正予算の際にも各課が積み上げた事業計画をひたすら添削し圧縮する作業が続いており、新しい事業を進めるという事が充分に出来ない状況になっている。職員にも力を振るう場が与えられないだけでなく、市民にとっても要望が満足に叶えられない不満や諦めが漂っている事は寂しい限りである。
 
 6月議会では一つ覚えの『金が無い』を検証するため、歳入と歳出について質問を行おうと考える中で、債権回収の問題について突き詰めて勉強したいと考えた。
 そこで県内先進都市である船橋市役所に視察を申し入れ、18日の火曜日の午前3時に勉強の場を設けていただくことになった。今後の木更津の為に役立つ話を聞けると思うと一人で行くことがもったいなく、同期議員の会合である『十九の会』メンバーに案内を送ったところ、国吉・鶴岡・平野・小林(敬称略)の4名が同行することとなり、5名による視察を行った。なお、交通費には政務調査費を使用する権利があるが、近距離少額なので全員自己負担による参加である。
 
 船橋市は平成16年度から平成19年度にかけての徴収率の伸びと収入未済額の削減率が政令指定都市17市と中核市35市の合計52市の中でトップの都市である。
 それらの数値を平成2年から平成20年まで本市と比較すると下表の通りである。
年度 収入未済額(億円) 徴収率(%)
木更津市 船 橋 市 木更津市 船 橋 市
平成2年 13.3 45.6 92.22 94.49
平成3年 16.1 50.6 91.34 94.22
平成4年 19.1 61.8 90.50 93.27
平成5年 22.3 71.3 88.88 92.39
平成6年 26.6 78.7 87.36 91.27
平成7年 28.9 86.1 86.65 90.77
平成8年 31.3 88.5 85.71 90.25
平成9年 34.5 91.9 84.71 90.29
平成10年 35.2 100.7 83.82 89.42
平成11年 37.2 98.9 82.42 88.96
平成12年 39.0 99.5 81.12 88.78
平成13年 35.6 96.8 80.27 88.86
平成14年 34.3 93.2 80.81 89.16
平成15年 31.5 85.1 81.88 89.63
平成16年 30.0 73.8 82.47 90.57
平成17年 27.2 67.4 83.55 91.67
平成18年 25.8 57.5 84.80 92.79
平成19年 26.2 53.1 86.18 94.01
平成20年 27.5 53.7 85.80 94.28
 
 上記の表をグラフにすると下図のようになる。
 徴収率が平成12〜13年頃に最低となり、その後は回復しているという点では本市も頑張っているが、平成2年度に2.27%の差が平成20年には8.48%と差が開いてしまっているのが現状だ。
 船橋市の人口は約60万人で本市の約5倍もあり、東京近郊で所在を把握できない市民が多くいる中で、収入未済額が本市の2倍程度に圧縮した事も驚きである。
 
 船橋市がこのように業績を回復させている理由は、主に次の6点であると考えられる。
@差押えは最終手段と考えず早い段階で実施する。
 → 対象も不動産より債権(預貯金)を重視する。
A戸別訪問(臨戸)を基本とせず、滞納者に来庁を促す。
 → その手段として差押えを活用する。
B滞納金についても完全徴収を目指す。
 → 市への早期支払いを優先する意識が生まれる。
C滞納整理システムで債権者の状況が共有できている。
 → 催促書類なども統一して行える体制に近づけている。
D調査事務等は非常勤職員を活用し差押え等は職員が実施。
 → 県の滞納整理機構は活用していない。
E債権回収担当職員のモチベーションが高い。
 → 困難業務に従事していると考え人事面等で評価を実施。
 
 本市はどの様な状況なのかと考え、参考に最近6年間の本市と船橋市の差押え件数を調べたので、下表に比較する。
木更津市
年度 不動産 預貯金 給与等 その他 合計
平成16年 165 27 4 57 253
平成17年 70 29 0 59 158
平成18年 91 44 3 64 202
平成19年 71 66 2 80 219
平成20年 66 44 0 56 166
平成21年 71 92 1 48 212
 
船 橋 市
年度 不動産 預貯金 給与等 その他 合計
平成16年 179 41 2 24 246
平成17年 263 121 3 59 446
平成18年 355 203 2 77 637
平成19年 413 425 11 120 969
平成20年 321 1,227 15 191 1,754
平成21年 314 731 36 169 1,250
 人口が1/5である事を考えると木更津市もそれなりに頑張っているように見えるが『徴収率』という結果がともなっていない。本市の場合はバブル崩壊が極端な形で訪れ、その影響が大きく出ている事も解るが、平成20年度で8.48%の差は大きすぎる。
 
 さて、その様に市民に恐れられ重圧をかける回収チームを持つに至った船橋市では平成20年度から税金以外の公債権(国民健康保険料、保育料、介護保険料、下水道使用料等)についても、巨額又は悪質な滞納者の債権を一元化して回収する事を始めた。システムが統一されていないため初年度は名寄せ作業等で苦労した様だが、6人のチームで1億8千万円以上を回収するなど顕著な成績を上げている。
 平成23年度からは差押えが認められない私債権(市営住宅使用料、学校給食費、霊園管理料等)についても民事提訴により回収する方針を決めている。
 
 債権は自治体にとっては埋蔵金であり、市民の公平公正のためにも財産を調査し回収すべき所からは回収するという強い姿勢が羨ましくもあった。さらに回収には専門知識が必要で本来業務が多忙な事業課が片手間で出きるものではない、という視点は同感であるので、木更津でも一元化を望んでいるのである。
 
 他にも、債権を分納の形で少しずつ回収することで時効が中断し債権が確保できるというメリットや、私債権の箇々は少額でも一元化で額がまとまり裁判費用を上回る効果が出る可能性があるなど、色々示唆される事も多かった。なお、木更津市では時効が中断されなかったために、市税と国保税の合計だけでも平成19年度に約4憶5千万円、平成20年度に約3憶9千万円の不納欠損処分が行われた。埋蔵金(債権)を失ってしまったのである。
 
 その一方で、生活困窮で支払いが不可能になっている者は執行停止を行う事で催促状による精神的威圧から解き放つ事や、多重債務者は裁判費用の必要ない法的整理を進めるなど、メリハリのある行為も勉強になった。
 
 将来的には債権の一元化でなく、歳入の一元化として、担当課は賦課だけする(例えば児童家庭課は保育料の算定だけ行い、徴収は納税と供に全て一元化する)事を想定するなど、船橋市に本市が追いつくのは大変だと思うほど、改革を進める意欲は感心したが、逆に船橋市の職員からは議員が先に視察に来て行政と一体で進めれば力強い話ですねと木更津を持ち上げて貰って、恥ずかしいぐらいだった。
 
 良いところは見習い、必要な場合は職員を一定期間派遣してノウハウを学ぶなど、都市間で切磋琢磨しながら良い行政を目指していく努力を怠らない一団まで本市を引き上げることが、市民にとって幸せになるのだろう。そんな事も視察の中で考えていた。
 
 ※ 21日に一部加筆修正を行った。