地域手当支給を考える
2011/03/08記
 昨日の総務委員会で、今議会最大の議案である市役所職員への地域手当て支給の案件が議論された。
 
 地域手当とは都市部における物価の高さを調整するために本給に対して給与の上乗せ支給を行うもので、平成17年度までは調整手当と呼ばれていた。国の基準によると本市と君津市は0%であるが条例上の支給率はそれぞれ5%と8%である。ただ、平成21年度から2年間は財政再建のため、支給を停止していた。
 ちなみに国基準の根拠は県に問い合わせても解らないと職員課が言っていたが、富津市が10%で袖ケ浦市が12%というのは私の理解を超える。富津市は本市より物価が1割も高いとも思えず、東京電力が有る都市は高くなると想像するしかない。
 
 この良く解らない国基準と実際の支給率の県内市一覧を作ったものが下表である。なお、人口は平成22年6月1日現在の住民基本台帳の値を千人単位にまとめ、国基準と支給率は平成22年度の値を記載し、国の基準が高い方から整理した。 
名称 人口 国基準 支給率   名称 人口 国基準 支給率
成田 126 15 12 白井 60 6 5
印西 89 12.35 8 野田 156 3 3
船橋 600 12 9 東金 60 3 3
我孫子 136 12 8 流山 163 3 8
浦安 161 12 12 八街 75 3 3
袖ケ浦 61 12 8 銚子 70 0 0
千葉 934 10 10 館山 50 0 0
市川 462 10 10 木更津 128 0 0
松戸 478 10 10 69 0 0
習志野 160 10 7 勝浦 21 0 0
八千代 189 10 10 鴨川 36 0 0
富津 49 10 4 君津 90 0 8
四街道 88 10 8 富里 50 0 3
茂原 94 6 2.5 南房総 43 0 0
佐倉 176 6 7 匝瑳 40 0 0
395 6 8 香取 85 0 0
市原 280 6 8 山武 58 0 0
鎌ヶ谷 108 6 7 いすみ 42 0 0
 
 一般的には東京近郊が高く地方都市は低いが、最も高い都市は空港関連企業の有る成田市であった。印西市が高いことと半端な数字に成っている理由は解らない。同様に原因は不明だが、人口10万人以上の都市で地域手当の基準額が0%なのは本市だけである。隣接する君津市は基準が0%のところを自治体の裁量で8%も支給している一方で富津市は基準の10%に対し4%しか支給していないなど、国の基準に一致してない自治体も多く目立っている。
 
 ただ、確実に言えるのは、基本給の金額体系が同じ場合は、本市の職員は同等級の君津市役所職員や袖ケ浦市役所職員より、約8%少ない給与しか支払われていないと言うことである。
 大学卒の初任給が四市とも178,000円という事なので、大卒の新入社員で毎月14,240円の格差が生じ、仮に提出案の3%を支給しても8,900円の格差が残るのである。採用試験の倍率は高いが優秀な職員を集める点で危惧するものは多い。
 かずさ四市の中で、既に市制施行が古く、また最大人口都市として、近隣市からの質問を受けても答えられるように、先頭に立って勉強をしている本市の職員が隣接の市より1割近く給与が低い状況にあることは、労に報えないようで心が痛む。
 
 しかし市役所間だけで比較するのは妥当ではないと思う。そこで民間の給与実態の推移を知るため、国税庁長官官房企画課が発表した『民間給与実態統計調査(平成21年分)』を元に、11年以降の状況をグラフにしたものが下図である。
 これは1年を通じて勤務した人の給与であるが、派遣職員という労働形態の定着とか、経済のデフレが進行する中で確実に民間給与は低下を続けている事が解る。特に百年に一度と言われた昨年の不況を受けて平成21年度の減少は著しい。
 
 地域手当に話を戻すと、本市では平成14年まで調整手当という名称で10%の支給があったが、その後、段階的に減っている。この推移を民間給与の推移と比べてみたものが下表である。
 なお、平成20年には組合に所属していない管理職は一足早く支給が止められたが、5%の支給が有ったものとし、また人事院勧告等によるベースアップ等は無視した。 
平均給与 指数   地域手当 指数
平成11年度 4,613 100.0 110 100.0
平成12年度 4,610 99.9 110 100.0
平成13年度 4,540 98.4 110 100.0
平成14年度 4,478 97.1 110 100.0
平成15年度 4,439 96.2 108 98.2
平成16年度 4,388 95.1 108 98.2
平成17年度 4,368 94.7 105 95.5
平成18年度 4,349 94.3 105 95.5
平成19年度 4,372 94.8 105 95.5
平成20年度 4,296 93.1 105 95.5
平成21年度 4,059 88.0 100 90.9
 このデータをグラフにしてみると下図のようになる。
 
 意図しているわけでは無いだろうが、地域手当の支給率の推移は民間給与の変動を少し遅れて追いかけている事が解る。今回の支給で市職員の給与が高くなると、下げるのは民間より遅く、上げるのは民間より早いという事態に成ると思われる。もう少し情勢を見守る時間があっても良いのではないかと思うのである。
 
 地域手当の復活は組合との約束事項であり、昨年11月より5回に渡り交渉した結果として本則の5%でなく3%と成った経緯を考えると執行部の努力の跡は感じられる。
 職員数約千人を要する市役所の給与に余裕が生じないことには夜の街が活性化しないという声も聞く。また、職員の中には調整手当の10%を前提に組んだ住宅ローンの支払いが給与の実質引き下げにより苦労を重ねている者も居ると聞く。
 前述のように、優秀な職員の確保や、近隣市より給与が少ない事で生じる職員のモチベーションの低下という問題も考えると支給も止む得ない気持ちになるが、ここで逆に支給を開始する事に対するデメリットも検討したい。
 
 まず支給を行うことで特別交付税が減額される可能性がある事だ。国の基準以上の給与の支払いは、総務省が「財政に余裕がある」と見なすので特別交付税をペナルティとして減額することになり、結果として住民サービスに回すべき財源が減ることになりかねないのである(参考)。残念なことに、この視点は委員会の中で議論されなかった。
 次に、委員会の中でも議論されたが、公的資金補償費免除繰上償還制度に対する影響も懸念される。自治体も努力をしているので補償金を免除して欲しい、という制度を申請しながら国基準以上の支給を行っても良いのだろうか。総務部の答弁では近年人員削減を進め人件費比率が下がったから大丈夫だと想定してるという事であるが、国に確認を取ったわけでは無さそうだ。制度を受けられなくなったら財政削減効果を失うことになるのである。
 3番目に、この案件が木更津約13万市民の理解を得られるだろうかという点である。鶴岡議員の言葉を借りれば『平均給与648万円の市役所職員がさらに18万円もらおうとする議案を提出し、平均報酬750万円の市議会議員が審議する。それを見守る一般市民の平均給与は406万円である』。この状況を市民から審議を託された議員は冷静に考えねばならないだろう。
 最後に、財政上の必要額の大きさである。3%とは言え、必要な予算は約1億6千万円を越えるのだ。予算が無くて市民の要望に応えることが出来ないと言っている市役所が人件費にこれだけの巨額の支出を行うことは如何なものかと思うし、民間の平均給与の40人分に相当することを考えると、リーマンショック以降の就職難の現在においては、まずは雇用を喚起する事業に使い、失業によって公金を受けている人を僅かでも納税者に変えるべきではないかと思うのである。
 
 総務委員会では鶴岡議員が1年間支給停止を延長する修正案件を提出し、賛成少数で否決された。人材募集や若年層への対応が厳しすぎると考えた議員が多かったのではと思われる。
 委員会の審議に加われなかった私は、委員長の審査報告の時にどうすべきか、採決の際にはどうあるべきか、そんな事を考えながら3月議会の最終日を迎えることに成るのだろう。