自然界の放射能を知る
2012/04/12記
 年度が替わり、母校から同窓会誌が届けられた。
 卒業生の親睦を目的としてはいるものの、工学部の会報らしく技術的な話題が数多く記載されている事が特徴である。その会報も東日本大震災を受けて特集が組まれていた。
 
 その中で相澤教授(応用化学・生物化学専攻)の『放射性セシウムと群馬大学工学部のつながり』という記事に目を留めるものがあった。文章の主題は現在のようなカウンターが無かった頃の昭和30年代に、米ソの核実験の影響を調べるため、セシウム137を17段階に及ぶ分離操作を経て検出するという困難な作業を実施していたのが我が学部であった事を記載することから始まり、現在の分析機の特色や放射性セシウムの問題などが書かれていた。
 しかし、私が驚いたのは天然に存在する放射能の記事である。
 
 遺跡の年代測定に炭素の放射性同位体を調べることは知っており、天然界に放射性物質が多くあることは常識としていた。しかし今回の記事にあったカリウム40は知らなかった。これは、カリウム全体の0.0117%を締め、半減期が12.8億年と非常に長いものである。それ以外のカリウム39とカリウム41は安定同位体なので放射能を発しないのだ。因みにカルシウムや塩素には天然の放射性同位体が無いので、塩化カルシウムと塩化カリウムを調べると放射線量が違う事になる。
 
 当然ながら、私を含め全ての生命に同様の比率でカリウム40が存在し、その量は体重60kgの人で約2.5×10の20乗(1兆の1億倍となる『垓』という単位なので2.5垓個)もの量となり、半減期から考慮すると1秒間に約4千個のカリウム40が崩壊し、ベータ線とガンマ線を出すことになる。つまり体重1kgあたり約67ベクレルのカリウム40を持っている事に成るというのだ。
 他にも炭素14を始め、多くの天然放射性物質が体の中には自然に存在し、体重60kgの人の中には約7千ベクレルの放射性同位体が有るという事だ。
 
 生命は全てこのような環境の中で進化を続け、現在存在しているのである。フクシマから放出された放射能は脅威には違いないが、少なくとも自然界にも膨大な放射能がある事を知識として持ち、恐怖のあまり思考停止した拒否反応を行うことなく、どの程度からがリスク(参考)として認識するべきかという視点を持つこと、またその教育が必要とされているのだろうと、アカデミックな文章を読みながら考えていた。