レバ刺と原発に思う
2012/06/16記
 厚生労働省の食品衛生審議会が7月1日から飲食店で牛の生レバー(いわゆるレバ刺)の提供を禁じる事になった。違反した飲食店には自治体が行政指導を行い、2年以下の懲役か200万円以下の罰金が科せられる可能性があるとなれば、表の世界からレバ刺が消える事になるだろう。大好物というわけではないが、今まで食べていた物を失うことは残念である。
 腸管出血性大腸菌O157が居る可能性の高い肝臓を「生で安全に食べるための有効な対策が見いだせていない」ために食品衛生法の網を掛けてしまうわけであるが、何やら牛のレバーがフグの肝臓と同じような扱いに成ってしまったようで戸惑いがある。
 自己責任で食べさせても問題ないという声も聞こえるが、この国としてはリスクがある程度以上高くなった物を禁止するという、規制行政が一般的なので、今まで何千万人が普通に食べ、極たまに食中毒患者が出るような物が禁止品の仲間に入るのである。
 
 安全基準が変わった放射能汚染食品も、どの程度のリスクがあるか明確ではない中で基準が変更になり、木更津ではタケノコやシイタケが出荷停止になった。怖いのはセシウムではなくセシウムが核分裂するときに発生する電子や中性子といった放射線であるなら、前にも書いたが、自然界の放射能も脅威である。それに比べ地球環境に慣れた生物が許容できない放射線濃度以下の場合は、癌の発生リスクが問題になるので、レバ刺を食べてO157に掛かる確立と、どちらが恐怖なのか解らないで居る。
 
 食品だけでなく、リスクがそれなりに大きい物は法的に禁止されなければならない。
 例えば乗用車が平均して1万キロに1回爆発し、運転者や周辺の住民を巻き込む可能性があるものだったら、それがどんなに便利な乗り物であっても使用は認められないだろう。
 原発は最も効率よく発電できるシステムであり、仮に同じものを風力で補おうと考えると山の稜線に風車が延々と並び、太陽電池で補うのであれば広大な面積をパネルで埋め尽くさなければならない。また、火力は二酸化炭素を排出し、水力は大規模な土木工事を伴い山里を水没させるという問題があるのでこれまで推進されてきた。
 人類は今回のフクシマの前にアメリカのスリーマイル、ソ連のチェルノブイリと2回の致命的な事故を経験してきた。3度目を経験した日本人は、レバ刺を禁止するように、原発を停めることが出来るのだろうか。
 
 もちろん、産業や生活にとって電力は欠かせない世界に進んでしまった。原発を失う分だけ何かで補わねば成らず、それが緊急に出来ない中では、現在の原発を再稼働させることはやむを得ないと思うが、長期的には再生可能エネルギーの普及を進め、安全に発電するための有効な対策を見いださねばならない。
 現在でも山の中には遠くの原子力発電所から送電するために延々と鉄塔が続くし、都市部では広大な面積を建築物の屋根が覆っている。その送電鉄塔の代わりに風力発電を、屋根の上には太陽光発電を設けることで、リスクの多い世界からの決別を目指すべきであろうと思う。その頃には牛の肝臓を「生で安全に食べるための有効な対策」が発見され食品衛生法も改正されているだろうか。
 
 今月末までにはレバ刺を食べ納めせねばならないな、と考えながら、この様なことを記載している。