道の駅の新設に思う
2015/07/11記
 前回記載したように連日のように続いていた雨が昨日(10日)は止み、一転して夏の日射しが降り注いだ。天気が良くなれば見に行こうと考えていた木更津東インターチェンジ脇の道の駅予定地を見に行きながら様々に考えてきたことを記載する。
 
 この道の駅は、三上・住ノ江・篠崎各市議が地域振興のためと議会で何度と無く取り上げ、企画部において検討を進めてきたものが今年度になって経済部の所管に移り、約3千万を投じて実施設計が進められているものである。因みに企画部の作成したイメージ図は下図の通りであるが、出入り口の位置やレイアウトなどは今後大きく変わる可能性がある。
 
 6月議会の全員協議会で経済部より中間報告があり、来年度には約3億円で建築工事が行われて開業がされ、平成29年度と平成30年度には維持管理で毎年8百万円を投じることになると、中期財政フレーズの中では位置付けられているものである。
 
 ちなみに財団法人地域活性化センターが平成24年3月に全国にある542箇所の道の駅の事業費を調べたところ、整備費2億円未満が22.5%で、木更津のように2億円から4億円の間になるものが20.5%であり、57.0%は4億円以上の整備費を投じており、その中央値は4億99百万円、平均値は7億29百万円であったという事である。木更津市は比較的金をかけない方に分類される。
 
 現場は圏央道、国道410号線、七曲川に挟まれた三角形の形状をした約9,685uの平坦な土地で、木更津東インターチェンジに隣接している。現在は七曲川方面が雑草で近づけない他は草刈もされており、綺麗な状況である。敷地の北隅には圏央道開通記念の桜が植えられている。
 敷地の西から北側を区分する七曲川は清流とは言えないものの水深も浅くて流れも緩やかなので、川沿いに並木を植えたり親水性を高く整備すれば、格好の遊び場に成るだろうと想像しながら、水面で餌を探している青鷺の姿を見ていた。
 
 しかし、そこから南に3kmも走ると道の駅ではないがJAきみつが経営する「味楽囲(みらい)」が有る。この日も平日なのにも係わらず多くの人達が訪れ買い物や水汲みに賑わっていた。木更津の新施設が同様のコンセプトで経営を始めることは同士討ちでもあり自殺行為だと思わせる。
 
 そもそも、コンセプトを自治体が造っても、誰が実現するのか未だに決まっていないのである。基本的には地域の自主性を有る程度は重視する事が広域行政化している木更津市にも必要だと考えているので、今まで道の駅事業について、地域外住民である私は口を挟むことは控えてきた。しかしながら詳細設計の段階に入っても施設の経営主体が決まっていない状況に危惧を覚えている。知人の農業者からは第6次産業化が出来るように食品加工場を造らせて欲しいという声も聞くが、誰がそれを運営するかも決まらない状況で話を進めることにとても違和感を感じているのである。ついでに記載すれば、事業手法も民間の力を活用するPFI方式とするのか、設計施工一括とするのか、設計と工事を区分するのかも明確ではない。少し立ち止まっても良いのにと思う所である。
 
 さて、道の駅を調べてみると、1990年頃から建設省(現在の国土交通省)によって社会実験が始まり、1993年4月に建設省から認定された103箇所で始められた事が解った。私が道路公団を辞めて自宅に帰って仕事を始めた時期とほぼ一致する。自転車で全国を走り回る中で綺麗な便所や休憩施設が使えるように成った便利さは感じていたが、基本的には民業圧迫ではないかと批判的に考えていた。
 時は流れ、自転車から登山の旅に趣味の軸足を移し、多くの道の駅の駐車場で車中泊をさせて頂くなど、活用してきて現在に至っているが、2015年4月15日現在で1,059もの道の駅が登録されている状況まで増えているようだ。なお、自治体別で最多のものは南房総市と岐阜県高山市の8箇所である。
 これだけの数があるので雑誌やメディアで取り上げられ、儲かっている道の駅が紹介されているが、中には完全に失敗してしまい、補助金で、地域や指定管理者や取り敢えず運営しているものも多いと聞く。自治体は道の駅を通じ、地域産品を販売したり、観光拠点にすることで、地域活性化効果を狙っているものが多く、木更津の新施設もその一例であるが、行政が施設整備と施設運営を税金で賄うことに対し、『稼ぐまちが地方を変える(NHK出版新書)』の著者である木下斉氏は問題が有ると指摘する。
 
 それは、民間が事業として施設を開発するならば、施設整備の初期投資部分の回収も含めて施設運営の売上げから捻出することに対し、道の駅は初期投資は税金であるため、その部分を稼ぐ必要がないという前提になっており、事業計画の段階から、あまり売上げが無くてもよい環境であるになっているため、関係者の売上げ向上・改善に向けての努力が行われなくなり、本来その地域に生まれるはずの利益が生じなくなるというのである。
 むろん、非常に多くの観光客や地元住民を集めて成功している施設があることは事実であるが、多くは地域興しとして行政が民間では採算の合わない立派な施設を建設することで、商業施設としては過剰な内容になりがちであり、さらには運営者が設計するわけではなく、設計は設計会社、建設は建設会社、運営は運営という分離によって、不便も多く、施設の維持費が事業の利益を蝕んでいく。その結果、多くの人が来ても利益を生み難く、地元で利益が再投資に回るといった理想的なサイクルにつながらない。さらには経営が行き詰まれば行政に救済を求めるし、当事者意識のない生産者は、売れ行きが悪くなると「どうせ売れない」と商品さえ持って行かなくなってしまう悪循環に入るとも、指摘するのだ。
 
 木下斉氏の意見を抜粋すると『地域で経済を生み生産性を高めていくのは行政ではなく民間です。逆に、民間が「なんでもかんでも行政に金を出してもらおう」という姿勢でいる限り、その地域が活性化することはありません。また、行政も「税金で手助けすれば地域で楽に事業ができる」という過信を持つと、支援なしに事業に取り組む人が地域からどんどん少なくなり、生産性が下がって、ますます衰退を招くことを認識しなくてはなりません。民間でできることを考え抜いて実行することこそ、しっかりと地に足の着いた経営ができるのです。何でもかんでも行政が支援をしていると「支援もないのに頑張れない」という依存心がますます強くなり、普通の市場では戦えなくなってしまいます。正常な民間の力がどんどん失われていってしまうのです。地方では、民間で事業を起こしてくれるめぼしい人がいないから、「まずは先行投資などで行政が頑張る」という話は一見理解を得られやすい話です。しかし、行政が頑張れば頑張るほど、民間は行政に依存してしまうという矛盾があります。これが地方創生事業における難しさでもあり、一番の大きな問題でもあります。』とされている。行政に携わるものとして、この言葉は常に頭に置いておく必要があると肝に銘じたい。