懲罰を求める陳情に思う | |
2016/09/10記 | |
今回の議会には議員が議場外でとった行為に対して憤りを感じた市民から議会として懲罰を求める陳情が出された。民間所有の他地区での宅地造成や崖条例を巡る市職員の指導等に対する議員の関与が不適正であったので賞罰をして欲しいという陳情なのであるが、これには実は大きな問題がある。 そもそも議員を他の議員が多数決によって懲罰を科す事が容易になった場合、少数派の議員に対し多数派が乱用しかねない。そこで議員に懲罰を科せられる条件は極めて厳しく制限されている。具体的には地方自治法の第129条から第133条の第9節『紀律』と第134条から第137条の第10節『懲罰』において次のように定められている。 |
|
地方自治法 抜粋 第129条 普通地方公共団体の議会の会議中この法律又は会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す議員があるときは、議長は、これを制止し、又は発言を取り消させ、その命令に従わないときは、その日の会議が終るまで発言を禁止し、又は議場の外に退去させることができる。 2 議長は、議場が騒然として整理することが困難であると認めるときは、その日の会議を閉じ、又は中止することができる。 第130条 傍聴人が公然と可否を表明し、又は騒ぎ立てる等会議を妨害するときは、普通地方公共団体の議会の議長は、これを制止し、その命令に従わないときは、これを退場させ、必要がある場合においては、これを当該警察官に引き渡すことができる。 2 傍聴席が騒がしいときは、議長は、すべての傍聴人を退場させることができる。 3 前二項に定めるものを除くほか、議長は、会議の傍聴に関し必要な規則を設けなければならない。 第131条 議場の秩序を乱し又は会議を妨害するものがあるときは、議員は、議長の注意を喚起することができる。 第132条 普通地方公共団体の議会の会議又は委員会においては、議員は、無礼の言葉を使用し、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない。 第133条 普通地方公共団体の議会の会議又は委員会において、侮辱を受けた議員は、これを議会に訴えて処分を求めることができる。 第134条 普通地方公共団体の議会は、この法律並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員に対し、議決により懲罰を科することができる。 2 懲罰に関し必要な事項は、会議規則中にこれを定めなければならない。 第135条 懲罰は、左の通りとする。 一 公開の議場における戒告 二 公開の議場における陳謝 三 一定期間の出席停止 四 除名 2 懲罰の動議を議題とするに当つては、議員の定数の八分の一以上の者の発議によらなければならない。 3 第一項第四号の除名については、当該普通地方公共団体の議会の議員の三分の二以上の者が出席し、その四分の三以上の者の同意がなければならない。 第136条 普通地方公共団体の議会は、除名された議員で再び当選した議員を拒むことができない。 第137条 普通地方公共団体の議会の議員が正当な理由がなくて招集に応じないため、又は正当な理由がなくて会議に欠席したため、議長が、特に招状を発しても、なお故なく出席しない者は、議長において、議会の議決を経て、これに懲罰を科することができる。 |
|
この解釈として、第129条から133条の紀律に違反した場合は第135条に規定する懲罰を科すことは出来るが「議会の運営と全く関係ない議場外の個人的行為は懲罰の事由とならない」とする最高裁の判例も有り、議会が懲罰を科すことは出来ないのである。もちろん、議場外の行為であっても議会の正常な運営を妨害することで行った誹謗中傷行為や外部に情報を漏らしては成らない秘密会の内容を公表した場合などは議会の運営に関係するため懲罰の対象にはなる。 従って市民から議会へ懲罰を科すことが求められても、今回の場合は可決することの出来ない事が明白な案件なのである。 その様に結論が明確な事案を何故議会が受理したかというと、日本国憲法が優先されると考えたからである。 |
|
日本国憲法 抜粋 第16条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない |
|
つまり「請願権」は尊重されるので受け付けなければならないのである。しかし多くの自治体が受理はするが、このような事案は審議しないという規則を設けている。しかし、木更津市の場合、木更津市議会会議規則において書式が整っているものは受理する事となっており、現在の市議会の申し合わせ事項でも「県下一律に郵送で提出される陳情は、議長預かりとする。ただし、陳情者と連絡を取り、趣旨説明に出席できる場合は、その限りでない。」と規定しており、陳情者が趣旨説明に来られる場合は審議するというルールに成っているのである。 従って、今回の陳情は受理して審議せねば成らず、可決する事が出来ないと言う案件なのであった。ついでに言うと何処の委員会にも属しない案件は総務常任委員会で行うというルールで、それを議論するのが私が委員長を務める総務常任委員会になったのである。 委員会の結論は「活動記録」にも記載したように個人間の案件を議会が採決するのではなく継続審議としたらどうかと動議が出され、否決せずに継続審査とした。但し、議会としての結論が出されるのは26日の本会議である。 今後も議員だけに限らず、市長や特別職、市の職員、さらには一般市民や法人まで、ありとあらゆる事に懲罰を科す事を求める陳情が出来る制度であることが明らかになった。陳情案件として議会が取り上げると地方紙や議会広報紙を使って議案名、つまり懲罰に科したい者の名前を公表できる事になるので、その乱用を避けることは急務であると考える。そのため、会議にかけない明確なルール造りを議会最終日に行われる議会運営委員会にて行うことになる見込みである。 |