ゼロカーボンに思う | ||
2021/02/24記 | ||
今月10日の議員全員協議会の場で渡辺市長が議員を前にきさらづ「ゼロカーボンシティ宣言」を行ってから2週間経過した。間が空いてしまったがゼロカーボンについて思う事を整理したい。 背景は産業革命以降の化石燃料の大量消費により空気中の二酸化炭素濃度が上昇し、その温暖化効果で地球の平均温度が上昇して異常気象が続いている事が人類を含む生態系の持続に対して深刻な脅威になっているという認識がある。 1997年に国立京都国際会館で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議で京都議定書が採択され、気候変動枠組に関する国際的合意の第一段が成立したが、中国等の当時の発展途上国に対する制約がない事に最大の排出国であるアメリカが異論を唱えるなど、具体的な進展は少なかった。 2015年のCOP21で採択されたパリ協定では産業革命前からの平均気温の上昇を1.5℃に抑える努力を追求するとの国際目標が出され、2018年のIPCC特別報告書において1.5℃に抑えるために、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする必要があると示され、その方向に努力することが共有された。 最大排出国のアメリカはトランプ大統領が地球温暖化は二酸化炭素とは関係ないような事を言い排出削減努力は取られなかったが民主党のバイデン大統領になって大きく梶が切られた。 日本でも昨年10月に菅首相が2050年にカーボンニュートラルを目指すと宣言し、二酸化炭素の排出量の実質ゼロ化に向けた様々な取組が進む物と思われる。 しかしながらスウェーデンの若き環境活動家であるグレタ・トゥンベリ氏を始め、現在の取組は言葉だけで実際の効果は少なく、もっと根本的な解決を図らないと遠くない将来に食糧危機や気象難民などの深刻な災害になると主張している者は多く、私も画期的な技術革新がなければ対応は難しいと考えている。 木更津市ではいち早く、2019年4月に「世界首長誓約/日本」に署名し、2020年3月に「きさらづストップ温暖化プラン」を策定して取り組む姿勢を示し、公共施設に太陽光発電設備を増やすとともに、民間事業者からの提案を取り入れ道路照明を消費電力の少ないLED照明に変えるなどの事業が進められている。 取組は評価できるのであるが、実質ゼロにする事からはほど遠く小手先の改革ではない根本的な制度は何があるだろうかと、絵空事のような話しも含めて以下に検討したい。 地域として排出する二酸化炭素は燃料の消費による熱や動力の利用が主であり、他地区で火力発電所で作られた電気を使用することで間接的な排出を行っている事になる。他にも製品の購入を遡り、その製作過程での排出もあるし、生命活動を維持するために呼吸として排出するものも有るが、相対的には少ないだろう。 カーボンゼロを目指すには、可能な限りエネルギーの自給を目指すことになる。太陽光や風力等による再生可能エネルギーでの発電が現在のところ容易な手法であり、木更津市では木更津航路北側にある通称「沖の防波堤」の辺りや盤洲干潟の北西側端部に洋上風力発電所を集中的に立地させることを検討しても良いと思う。 この写真は中之島大橋から2月19日の朝に見た沖の防波堤と富士山である。手前の一部は航空法の制限が生じるように思うが西側の大多数は高度制限を受けないので高さ100mを越える洋上風力発電は可能と思われるし、木更津市が自然環境に優しい都市だという代表する景観を作ることになるだろう。 他にも小櫃堰や矢那川ダムの放流を活かした小規模水力発電は検討されるべきだろう。双方とも県管理の河川であるが、千葉県もゼロカーボンを宣言しているから、それが本気なら可能性は高いと思う。県が管理する亀山や片倉など多くのダムで検討すべき課題と考えている。 成田市では2016年7月に香取市とともにゴミの焼却と太陽光による地域電力会社である叶ャ田香取エネルギーを設立し、エネルギーの地産地消を進めるだけでなく年間約67百万円の財政削減効果も果たしている。 電気だけでなく雑草や森林資源を利用したバイオエタノールの生産や、ミドリ虫等の微生物から燃料を作り出す技術もDNA研究所を要する木更津市としては目指すべきだろう。公用車は当然として市民が所有する車両の殆どが地域の風力発電所の電力で走る発電気自動車か地域で生産したバイオエタノールのハイブリッド車にするという目標があっても良いと思う。 次に炭素の固定である。排出した以上に二酸化炭素から有機物を作ることで実質排出量は減少する。今までは第一次産業での固定化が標準であったが林業などは産業としては壊滅的であり、山の中で朽ち果てていては炭素の固定化に繋がらない。 房総半島の森林資源を活用するCLTの産業化、木工製品の市場拡大を進めるべきと思うし、特に成長が早く炭素固定化が顕著な竹の活用は重要な視点になりおうである。 農作物の生産も炭素固定化に繋がるので、稲作が終わった後の水田で別の農産品を作ることに支援する事は政策的には正しいと思う。海でも海苔やワカメのように炭素固定を行う食品生産を伸ばすべきだろう。アマモのように商品に成りにくい水生植物も魚類の生育のために必要なので、東京湾の森林化は水産業全体にも良いはずである。 なお、海洋生物による二酸化炭素の固定化という考え方はブルーカーボンと呼ばれ日本製鐵も積極的に取り組んでいる。東京湾の中でも船舶の航路として使用できない木更津沖の浅い海域等で共同研究することも検討されるべきだろう。 更には既にミドリムシを活用した企業も存在しているが、他にも多くの微生物によるバイオエタノールの生産や微生物の食品化という選択肢は進めて行くべきだろう。 究極の解決方法は、投下エネルギーが少ない人工的な光合成の開発である。それが可能になれば地球温暖化だけでなく食糧危機すらも解決できるようになるだろう。その様な研究機関をアカデミアに誘致することはどうだろうか。 3番目に熱の直接利用である。ヒートポンプやコジェネレーションの利用により冷暖房の負荷を減らし省エネルギーを進める技術は現在でもあるが、熱の貯蓄が可能になれば冬の暖房を夏の猛暑の貯蓄で乗り切り、夏には冬の寒気で冷房できればエネルギーの消費が減らせる。その為には蓄熱素材や断熱工法の画期的な進歩が必要だろうが木更津市には設置できる空間も多い事がメリットであると思う。 特に夏の熱エネルギーを冬に持ち越すことが出来れば化石燃料の消費削減に直接つながる事になる。電気を溜めるための電池が化学反応を利用しているように、熱を溜めるための方法も蓄熱以外に他のエネルギーに転換する技術が考えられていく事になると思われるので、その研究拠点にかずさアカデミアパークが成るべきだと個人的には希望している。 4番目は脱炭素としての水素の生産である。水素が現在の価格の1/20以下になって安定的に供給できれば鉄鉱石から銑鉄を作る際に使用するコークスを水素に変えることは可能であるようだ。 福島の原発事故では水素爆発を起こしたが、原子炉のような状況でなく真夏の太陽エネルギー程度で水素を発生できるような触媒等が開発できたらエネルギー革命に繋がるであろう。 現実的には再生可能エネルギーが供給過多に成ったときに水を電気分解して水素を取り出すような設備を作る事になるかも知れないが、安定的に水素を作る設備を製鐵所に併設できるとゼロカーボンに近づけることが可能となるだろう。 因みに福島県浪江町では昨年3月より太陽光発電で上水道を電気分解して水素を作る福島水素エネルギー研究フィールドの運用が始まっている。 5番目は物資移動の抑制である。食料品を遠方から輸送することに伴う排出を減らすためには地産地消を進めてフードマイレージを下げるべきである。また昨今のネット通販に伴う宅急便の増大は輸送に伴うエネルギー増大を招いている。逆に昨今のリモート勤務による通勤の減少はエネルギー抑制に成ってるので推進すべきである。多くは生活の利便性に直結する部分であるが、徒歩生活圏を中心としたエリアで基本的な生活が完結する社会が求められる事になるだろう。その様な意味でもコンパクトシティは理想的であるが、長い歴史を持った集落が消滅することに対する抵抗は大きいし、それは如何なものかと個人的には考えている。 まだまだ多いが、最後に世界的な緑化を国際的に進める事が根本的には必要だと思う。放牧や開墾によって失われた森林を復旧し、砂漠緑化を進めれば樹木という形で炭素は固定化出来るし、地中の含水量が増加して河川や湖水が地上に増えれば僅かでも海水面上昇の抑制になる。そこから水蒸気が上昇することで気化熱が奪われ平均気温上昇を防止できるし、空に雲が増えれば太陽光のエネルギーが地表に到達する前に反射で失われる分も増えるので温度上昇を防止できるだろう。 天保の飢饉は浅間山という巨大火山の噴火で火山灰が空を覆い地表に光が充分に届かなかった事による寒冷化が原因であったという説を読んだことがある。同じような事態が発生し、寒さによる食糧危機が深刻になる事態も起こるかも知れない。温暖化の方が良かったという時代が来るかも知れないが、それでも目の前にある温暖化に伴う危機を解決するため、自治体で何が出来るのか問われる時代になっている事を感じながら雑感を記載した。 ※3月6日に3箇所の先進事例を加筆した。 |