情報社会と感染症
2021/05/05記
 昨年の大型連休は未知のウイルスに対する恐怖と「自粛警察」の活躍により静かに過ぎたが、今年の連休は東京や関西に緊急事態宣言が出され首都圏では多くの自治体に蔓延防止等重点措置が執られているにもかかわらずアクアラインを始めとした高速道路では連日渋滞を発生させている。
 新幹線や飛行機にも多くの旅行者が帰ってきて運輸に携わる企業や観光地の産業には寄与しているようだが人流は防げていない。感染症対策として自宅に篭もるという意識は明らかに低下しているようである。
 昨年の今頃なら葬儀にも人を呼ぶべきではないという空気があったがそれも薄れており、私も連休を使って埼玉県にある妻の実家に行ってきたので、観光地に出かけてきている人達を非難する資格はないだろうが心配になる状況である。
 
 千葉市蘇我スポーツ公園では2日から6日までの4日間に渡り毎日1万人の観客を入れたJAPAN JAM 2021が開催され連日9時間に渡るロックフェスティバルが開催されている。屋外の行事で感染症対策も十分に行っている様であるし、音楽関係者には生活がかかっている事も理解はしているが、現象としての人流は発生している。会場を貸したのは千葉市であるが、対策が執られていると判断して中止は求めなかったようだ。
 しかし幕張のマリンスタジアムで一昨日から開催予定であった日ハムvsロッテの3連戦は日ハムの複数選手が陽性になったことより試合は延期になった。これはプロ野球の実行委員会による判断で12球団の総意による決定と聞く。
 また、先月29日から青森に向かっていた豪華クル−ズ船の飛鳥Uでは乗客の一人が陽性であることが明らかになって横浜港に引き返し、同じ29日に横浜を出港したにっぽん丸は大分県の佐伯港に停泊していたところを横浜市からの要請があり感染者が居ない状況でありながら日本一週のクルーズを中断して横浜に引き返すことになった。
 木更津市でも夏の港まつりの中止を決めているが、既にチケットが販売されているイベントや航行が開始されているクルーズを中止するように求めることが出来るだろうかと考えさせられる事案である。ともあれJAPAN JAM参加者からの感染者が生じないことを願うばかりである。
 
 さて、房総半島における新規感染数であるが先月24日から昨日までの10日間で98人であり、一日当たりの増加数は9.80人であった。前回に続き10人を下回っているが増加傾向は変わらない。
 また、この10日間に感染者千人越え自治体に市原市も加わってしまった。同じく千人を超えた流山市を加え千葉県内で10市と成ったが、他の9市は蔓延防止等重点措置の適用範囲である。
 
市名 感染者数 町村名 感染者数
1 館山市 59→59 1 九十九里町 38→39 +1
2 木更津市 494→509 +15 2 芝山町 32→32
3 茂原市 211→219 +8 3 横芝光町 36→36
4 東金市 171→176 +5 4 一宮町 19→22 +3
5 勝浦市 38→38 5 睦沢町 13→13
6 市原市 977→1011 +34 6 長生村 26→30 +4
7 鴨川市 60→60 7 白子町 17→17
8 君津市 159→165 +6 8 長柄町 5→6 +1
9 富津市 65→65 9 長南町 39→41 +2
10 袖ケ浦市 190→191 +1 10 大多喜町 8→8
11 南房総市 71→71 11 御宿町 14→15 +1
12 山武市 161→163 +2 12 鋸南町 27→27
13 いすみ市 74→78 +4
14 大網白里市 115→126 +11
市計 2845→2931 +86 町村計 274→286 +12
房総半島合計 3119→3217 +98
 
 グラフの勾配は若干緩くなっているようにも思えるが、ワクチン接種が進む年末までこの傾向(10人/日)が続けば、2400人増加することになり、累計では5600人を超える。
 
 
 木更津市のグラフも房総半島と相似形で増加しているように見える。館山市では3月末から一人も新規感染者が出ていない状況なので、房総半島の増加者は市原市と木更津市で押し上げていかのようだ。
 
 
 ワクチン接種が進む諸外国ではイベントへの参加や飛行機の搭乗に対してワクチン接種が済んだことを示すパスポートを掲示することが一般化しつつあるように聞く。たとえ感染者が集団に混じっても全てがワクチン接種者で有れば感染が拡大するリスクが極めて低くなるので妥当な判断であると思うし日本でもそうすべきだろうと個人的には考えている。
 一方、国内ではワクチン接種が出来ない体質の人に対する差別になると言う事で接種証明の発行には否定的な見解が有る。陽性者の情報についても極力特定できないため陽性で自宅療養を指示されている者が外に出かける事態を招いている。
 戦前の国家統制に対する反対意識から個人情報に対するアレルギーが強い知識人が多く、マイナンバーカードの普及や活用に多くの制限が掛けられた。国勢調査の信頼性も低下する一方であり、自由がある社会であったかも知れないが、感染症の前では速やかな対策が講じられない結果に繋がっている。
 
 個人的にはマイナンバーカードに接種記録だけでなく携帯電話や郵便貯金口座情報等も連動させ非常時の対策を容易にする事が望ましいと考えている。個人情報の漏洩は大きなリスクであるが、情報を入手した者や活用した者に対する厳罰化を行う事で対処すべきで、マイナンバーカードを無用の長物にする努力を重ねるべきではないと感じている。
 因みに昨年度までの4年間に木更津市がマイナンバーカード関連事業に要した予算は下表の通りであり、多くが国の補助金であるが市の一般財源からも4千万円近い費用を投じている。
 
全体額 補助金額 一般財源
平成28年度 61,366,000 40,857,000 20,509,000
平成29年度 30,993,000 23,506,000 7,487,000
平成30年度 24,193,000 18,768,000 5,425,000
令和元年度 33,961,000 30,251,000 3,710,000
合 計  150,513,000  113,382,000  37,131,000
 
 巨額の費用を投じたから利用しなければ損だ、と言うのではなく有効に活用できるはずのものに各種の制限をかけながら予算を投資している現状を嘆かわしく思うのである。
 特に今後予想される東南海トラフによる海溝型大規模地震や異常気象による大規模冠水被害などを想定して速やかに対処できる体制を今のうちに構築することがコロナ感染症からの教訓にしなければならない。
 
 今回のワクチン接種の遅れや情報利用による感染対策の弱さは酷い目に遭わないと強い対応を取れない日本式調整型政治の結果のように思える。ドイツが降伏し沖縄が占領されても戦争を終結できず原子爆弾とソ連参戦まで戦争を継続して多数の国民及びアジアの民を悲惨な状況に追いやった戦前の政府と同じ轍を踏んでいるようにも感じられる。
 政府がデジタル庁を作り推し進める制度改革には多くの反対意見が出され、迅速な改革は出来ないだろうと推察される。問題点を議論することなく強行採決することは望んでいないが、先ずは緊急時に対応できる制度を構築し、逐次改修していくという迅速な対応を期待したい。
 
 阪神大震災でボランティア制度が広がり、東日本大震災では強靱化や事業継続性についての議論が進んだ。今までの辛い出来事から次世代に繋がる明るい芽が伸びているのだ。今回の感染症は何を残すことになるのか考えながら子供の日に記載している。