水道料金を考える | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2021/05/25記 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
5月20日にかずさ水道広域連合企業団で企業団議会の13人の議員に向けた事業説明や懇談会が行われた。それに先立ち説明が欲しいことについて事前提出を求められたので4月28日に水道庁舎に行って打合せを行い、かずさ四市における口径別や水量別の契約状況と今後の料金改定について考え方を示すよう業務課にお願いしてきた。 事業統合をしたものの、水道料金については現在各市の経営状況を反映した市毎の料金制を採用しており、統合10年目となる令和11年に四市統一料金とする事を目指している。また、統合5年目である令和6年には四市それぞれに異なるセグメント毎の料金改定を行うことも統合基本計画で示されていた。 私の問題意識は、四市の水道料金が単に金額が違うだけではなく、負担を何処に担っていただくかという哲学の違いに由来する差が大きいため、令和6年の料金改定は現行料金の単純な見直しとするのではなく、令和11年の統一に先立つ緩和措置としての料金改定を行うべきだという点にある。 水道については水道法第二条に「水道が国民の日常生活に直結し、その健康を守るために欠くことのできないもの」という視点を大切にして、生存権を守るため負担能力の少ない使用量が少ない世帯には安価に供給し、負担能力のある大口利用者には応分の負担を行って貰おうと各市ともに考えている。しかしながら、大口径管の基本料金や使用料の多い水量に対する考え方に各市で大きな差が生じていることが現状である(参考)。 そこで水道料金の考え方について論理的に説明が行えるよう、どうすべきか独自で私的に考えてみることにした。数学の知識だけでなく水理学の知識まで必要になる記述も有るが、なにとぞご容赦いただきたい。 1.基本的な考え方 現況の料金体系と同じように口径別基本料金と使用料に応じた利用料金の合算額とする。なお、富津市では一般家庭が主となる小口径の利用料金と口径が大きいものの利用料金を変えているが、安価な小口径で長い時間を掛けてタンクに溜めると安価に成るという不公平感を払拭することと料金体系をシンプルにするため口径に関わらない料金体系を執ることにする。 2.口径別基本料金 基本料金(Ak)は水を使う権利と考え、同一時間に使用できる水量に応じた料金体系とすることが解りやすい。 管の中を流れる流速が一定である場合なら使用できる水量は管の断面積に比例するので口径(D)の2乗に比例すると考えることが一般的である。しかし、流速も変化するものだと考えると水理学の基本公式であるマニングの式を念頭に置くことが妥当になる。 マニングの式では管の状況(粗度係数)と動水勾配が一定であれば流速は径深(R)の2/3乗に比例する。径深は面積を潤辺で割ったものであるので、円形で満水が一般的な水道管の場合 R=(1/4×π×D^2)/(π×D) =1/4×D となる。つまり口径が大きい方が流れやすいことになり、これは断水等で水圧が低下したときに口径の小さい世帯では水が出にくくなる現象でも理解できる。従って水量は面積×流速として求めることになり、Dの8/3(=2+2/3)乗に比例するものと考えることができるので次式で表すこととなる。 Ak=α×D^(8/3) ここでD=20[mm]の場合、Akを富津市以外の三市が採用している990[円/月]とすると α=0.336を得る。 この値を用いて各口径別のAkを求めるのであるが、25[mm]以上は百円単位にまとめることにする。また、13[mm]は上記の数式では求めず、現在でも木更津市と君津市で設定しているように細い管による弊害を抑えるため20[mm]に誘導すべく、同一料金とした。月単価を2ヶ月分とするために2倍として計算したものを現在の各市の料金と比較すると下表のようになる。 |
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上記の表をグラフにすると下図の通りである 求めた値は袖ケ浦市ではほぼ全体的に値上がりとなるが、君津市から見るとほぼ全てで減額になる。 袖ケ浦市は水道料金を低く抑えるために他の三市とは異なり一般会計からの繰り出しを行っている。水道事業の独立採算性を貫くのであれば繰り出しを中止し値上げすることはやむを得ないものと思う。 また木更津市の大口径では、例えば150mmの契約が4.85倍までの大幅値上げとなる。現在木更津市域で生じている問題は大口径管を接続しながら、日常の使用水は井戸水を使用し、不足する場合だけ水道水を使用する企業が増加している事である。原因の一つは安価すぎる基本料金にあると思われるので公平の観点からは基本料金を値上げする事は妥当だと私は考える。 井戸の使用については水道法第六条2項で「水道事業は、原則として市町村が経営するものとし、市町村以外のものは、給水しようとする区域をその区域に含む市町村の同意を得た場合に限り、水道事業を経営することができるものとする」と規定しているにもかかわらず、規制緩和の流れの中で儲かる大手使用者に対して民間企業が進出し、採算に合わない部分を公営企業がカバーするという状況に成っていることが大きな問題であるが、ここではそれ以上の追及は行わない。 試算されたAkを2ヶ月分にして現在の基本料金の差を求め、令和3年2月の口径別契約件数を乗じて影響額を計算したものが下表である。なお200[mm]は契約が無いため表からは除いている。 |
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着色したように木更津市や袖ケ浦市では値上げとなるものが多いが、富津市の20[mm]における基本料金の値下げに伴う収入減が大きく影響し、広域連合としては2ヶ月で約18百万円、年間で1億2百万円の減収になることが明らかになった。 最初に求めた定数αの値を変え、一般家庭の基本料金も月額千円を超える設定にすれば減額を回避することも可能であるが、個人的には月額最低料金の990円を変えたくないので口径別基本料金はこの額で設定を進めたい。 3.水量別料金 現在は使用料に応じた段階的な料金設定を行っている。しかしながら使用量が増えた場合、現在の各段階別の料金を積み上げる方式では計算が煩雑になり解りにくい。 スマホにも計算機が常駐するように、電算機の普及により水道料金も計算式で示すことが合理的と考え、量別の段階的な体系を廃止して関数で表したい。なお横軸の増加に応じて縦軸が増加する関数としては三角関数を始めとした多くの関数も考えられるが、シンプルな数式にすることが望ましいので2次関数を選んだ。 よって、水道使用量(Q)と水量別料金(Aq)の関係は次式で表すことにする。 Aq=β×Q^2+γ×Q これをQで微分した値(dAq)がその使用量における単価となるので、それを数式で表すと次のようになる。 dAq=2×β×Q+γ Q=0の時のdAqはγであり、現状では88円から264円まで各市の差が大きいが、最安価に設定している富津市では口径別基本料金が他市に比べて高額なために安くせざるを得ないという状況が理解される。それを加味すると、他三市の104.5円〜141.9円で設定する事が望ましいと思う。ここでは高い方の値である140円として試算を進める。 次に大口利用者の負担が水の供給原価を大きく越えて高額に成りすぎないよう、dAqの最大値を設定する。 現在の最大値も399.3円から539円までばらつきがあるが、先に述べたように大口利用者がより安い水を求めて井戸水を利用する業者を使用することで公営水道の採算が悪化することは避けなければならないと思われるので上限は480円に納める。 因みに現状の料金設定で480円を上回ることが無いのは袖ケ浦市だけである。他市の状況を見ると木更津市ではQ>600で484円となり、君津市はQ>500で484円、富津市はQ>200で495円となる。最大値を抑制する代わりに早めに上限値に達するように設定するなかで、使用水量 Q=200で dAq=480として計算すると dAq=480=2×β×200+140 となり β=0.85を得る 従ってQ<200では Aq=0.85×Q^2+140×Q となり Q>200では Aq=62,000+(Q-200)×480 となる。 Qを現況料金体系別の階層毎に幾つか設定し、現状の料金体系と上記の数式で求めた値と比較すると下表の通りになる。 なお、表中の富津[A]は口径13[mm]と20[mm]の料金体系であり、富津[B]は口径25[mm]以上の料金体系である。 |
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200m3以下の水道料金をグラフにすると下図の通りである。 水量による影響は、口径別基本料金と同様に木更津市や袖ケ浦市で値上がりして富津市で値下がりする傾向である。 Aqを元に現在の料金との差を求め、令和3年2月の使用水量別契約件数を乗じて影響額を計算したものが下表である。なお、使用水量Qは契約量別の中央値として想定して計算しているが、使用実態を正確に把握していないので影響額は想定値に留まることを留意して欲しい。 |
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今回想定した料金体系に変更した場合、使用水量による収入増は年間で1億64百万円となり、口径別基本料金の見直しに伴う減額の1億2百万円を62百万円上回ることになると想定される。 2019年9月の台風15号による長期停電や2020年12月の富津市笹毛での本管破損による天羽地区での断水などが続き、断水しない設備やルートを検討し整備を進めるとこの程度の値上げでは採算が合わない可能性が高いが、今後は統合による規模拡大を活かし経営合理化を進めていくことも重要となる。 因みに各世帯が払う料金は Ak+Aq であるので、契約件数が多い20mmで使用水量20m3と40m3の場合を比較すると次のようになる。 |
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富津市の一般家庭では水道料金が下がり統合の恩恵を感じると想像できるが、水道料金が上がる木更津市と袖ケ浦市では充分な周知を行い理解を得ることが必要になるだろう。 金額の変化が大きい大口径かつ大容量使用者の影響を参考に計算してみた。100[mm]の利用者が600[m3]使用した場合の金額は次のようになる。 |
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100[mm]の管を必要としているのは製造や大型商店などの企業だと推察される。君津市では経費削減になるが木更津市や袖ケ浦市では年間の水道代が上がることによる経営への影響も懸念される。100[mm]の管では31件、65[mm]以上では133件の大口径の契約者が居る。変化の幅が大きいので口径の変更や節水方法を提案した個別説明が必要だろうと思われる。 今回想定した料金では四市の中間的な値になるようにパラメーターを設定したので木更津市や袖ケ浦市の一般家庭の料金は値上がりする事になるが、本当に料金改定を行う際には多くの検討が必要となることは言うまでもない。今回は論理的に説明が出来る料金体系を試算したものに過ぎないと理解いただきたい。 なお現在は統合した事による国からの補助金を活用し、老朽施設や管渠の更新事業を進めているため財産価値が増えていくことになる。その減価償却を前提とした料金体系にすると更なる値上げが必要となるが、一方で毎年のフローが赤字にならないように料金体制を見直せば値上げ幅は遙かに少なくなる。ただし後者の場合は頻繁に料金改定を行うことになり、設定を見誤れば将来に負債を残すことに成りかねない。 料金の設定はこれまでに述べたような数理モデルだけでなく、現実の事業運営に必要な支出をどの様に補うか考えながら決定されることになる。 今回は料金の設定をどの様に考えるか、個人的な提案を行っただけに過ぎない。使用料金を2次関数で求めるような自治体は未だかつて聞いたことがないが、理工系の私としては合理的だと確信している。 ハッキリしているのは木更津市と袖ケ浦市の住民にとっては令和11年の料金改定は多分値上げになり、富津市の住民にとっては値下げになる。これは統合基本計画で示されている話である。 単なる値上げではなく、契約している口径や利用状況によっては値下げや急激な増額も生じる可能性があり、それを前提とした料金変更の中間地点に令和6年が有るのなら、そろそろ公開された議論をへて合意形成を図るべきだと考え、今回は一石を投じた次第である。 ※5月27日に100[mm]の金額変更に対する考察を追加 ※5月28日にグラフ2枚を追加 |