情報の壁を考える
2023/06/04記
 北朝鮮が衛星を打ち上げると通告してロケットを発射し、連日ニュースを騒がせている。今までは軍事用のロケットを打ち上げてから発表していたのだから情報開示が進んでいると好意的に解釈しても良いところであるが、大陸間弾道弾に利用する技術を磨いていると考えると国連決議に従って厳しい対応が必要になるという主張に同意する。しかしこれ以上の経済制裁も難しい中、自国民の困窮や飢餓を気にしない国家権力に対して何の対応が出来るのだろうか、と思ってしまう日々である。
 中華人民共和国も一昔前までは経済が活性化して市場主義が浸透することで民主主義が根付くと信じていたし、仏頂面の胡錦濤より文化大革命で農村に飛ばされた経験のある習近平の方が痛みを知る分だけ国民に優しく近隣国とは調和を優先する政治を行うと信じていたが、権力の集中を進める中でインターネットの利用制限も厳しくなり、香港では一国二制度が骨抜きになり言論統制が強められ、大陸の中でもコロナ施策に反対した「白紙運動」参加者の拘束が続いているように民主主義から離れていく一方であるように感じられる。シンガポールで浜田防衛大臣が中国の李尚福国務委員兼国防相と会談できたことが少しは救いであるが、私が生きている間も、私が居なくなった先にも、私が杯を交わした知人が多く、今から31年前に自転車で高い峠を越えた思い出の多い土地である「台湾」を巡る武力衝突が生じないことを切に願うばかりである。
 ロシアでも自国が一方的に隣国への侵略を行い多くの命が失われている状況に対して厳しく情報統制を行うなど、日本の近隣諸国は「情報の壁」が立ちはだかり、お互いの信頼を得ることが非常に難しくなっている。ベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終わったら国境は低くなるものと思っていた過去の自分の不明を嘆くばかりである。
 
 さて、そんな国際情勢だけでなく、日本国内でも個人情報保護の元に「情報の壁」が増えてきたように感じる出来事が続いているので記載したい。先ずは先日開催された議会運営委員会で議会に情報開示を求められ判断が難しい場合の相談先となる学識経験者の指名を行ったのであるが、市が指名している学識経験者を議会も指名するとはいえ、前回の委員会でも危惧された高齢ではないかという指摘に答えられるよう年齢情報程度は示して欲しいと事前調整で事務局に要求していたものが「個人情報」という壁で開示されなかった。過去に相談したこともなく、年齢が明らかでないと承認できない、という委員も居なかったので非公開のままで採決したが、個人的にはこれでよいのかとは思う。
 職員採用試験で卒業大学を記載すると、有名大学に有利に働くので非公開で採用試験を行うという企業の方針には反対しないが、新卒と中途採用が明らかになる年齢や性別による偏見を減らすために年齢や性別についても公表しないということまで必要なのかとは思う。LGBTQへの理解が進み必要以上に性別覧を設けないという方針には理解が出来るが、一方で審議会等の機関に女性を増やすべきだという方針は矛盾しないのだろうか。少数の性同一障害が存在することは認めるし尊重するべきだと思うが、高齢男性が社会の中心を担っている日本での市民生活に関わる制度運用を決める際には多くの女性の意見、さらに若者の意見が必要だし、可能ならばLGBTQの当事者の意見だって反映させるべきだと思うので、それらがバランス良く配置されているかを知る手掛かりとして、年齢や性別を個人情報として公開しない風潮には如何なものかと思うのである。
 
 また、6月定例会の一般質問に向けて、アクアライン高速バスの路線別輸送人員の推移やアクアライン通行量についての情報開示を求めたところ、バス運行会社や東日本高速道路株式会社は情報開示に難色を示しているのである。輸送人員や通行量といった基本的な実績値の情報を元に施策判断を進めることが普通であると思うし、それは議会だけでなく広く市民に公表されるべきデータであるべきだと個人的には考えているが、間違っているだろうか。
 今後の交通量の推計値などは予想との乖離が問題になる場合が多く、公表を躊躇う気持ちは理解できる。しかし実績値については単なる事実であり、隠蔽しようというのでは無いことは解るが、出来る限り情報を出さずに済ませようと思う考えは英知を集めて課題を解決しようという姿勢とは間逆であり、権力集中の元に情報統制を進める近隣諸国と同じ様な構図が日本でも起きている様に思うのだ。
 
 雉も鳴かずば打たれまい、という言葉のように出来る限り沈黙を守り情報を出さずに済ませようとする姿勢は、最近の君津製鉄所の排水問題でも感じられた。問題を起こさないことが何よりも優先される「事なかれ主義」が蔓延し、昨年の今日、陸上選手の為末大氏がSNSで発信して話題となった「なにかあったらどうするんだ症候群」が国家の隅々まで蔓延しているように感じている。
 この結果、日本では多くの組織が硬直化して閉塞しているのではと感じることが増えており息苦しさすら覚えてくる。日本人の出生数が戦後最少を更新し、経済成長が見込めない中で円が安くなって物価は上昇するなど重く澱んだ空気が溜まっているのだ。
 
 風通しの良い世の中を造っていきたい、と思いながらその難しさに直面し、今回のとりとめもない記事を終えることとしたい。