茨城県境町で思う
2023/12/18記
 木更津市議会が閉会となり金曜日に袖ケ浦市議会で行われている一般質問を傍聴に行き佐藤麗子市議と粕谷市長の答弁を聞いてきた。その中で粕谷市長がLEVEL-4の完全無人運転を視察に行ったという答弁があったので休憩の合間に何処の自治体か確認したところ長野県塩尻市ということであった。直ぐに携帯で調べてみると国内初の量産型自動運転電気バスを使って今年の8月29日から実証実験を開始し、2024年に認可取得し、2025年から本格運行を目指しているという段階にあるようだ。バスを開発したティアフォーのHPを見ると秋田県大館市でも11月20日から実証実験が始まるなど先進都市では取組が進んでいることを知った。
 
 自動運転バスについては母校の群馬大学が各地で実証実験を進めており2019年12月17日に渡辺市長や市役所の関係者と荒牧キャンパスまで視察にも行った。この頃は大学や企業が研究のために数ヶ月運行してデータを集めるという段階であった。
 茨城県境町では全国に先駆け、2020年11月から自治体が導入する形で自動運転バスの運行を始め住民の足として利用していることを6月29日の自治体公共Weekのセミナーで聞いていた。
 
 境町では地場産品を商品化する食品研究所を開設して、ふるさと納税の拡大を行い納税額で6年連続関東一となった。その額は2022年度では59億5300万円に達し2023年度では60億円を突破したようだ。特に名産品の有る町ではなかったがお米や常陸牛、干し芋などが好評なようである。10年前は1741自治体の中で下から29番目の財政の悪さを救ったのは2014年3月に38歳で町長に就任した橋本町長である。
 その橋本町長が2019年11月に目にした新聞記事で自動運転バスを知り12月には運行会社と協議を行い、翌1月早々に臨時議会を開いて自動運転バスの導入を決めている。
 橋本町長は1999年に境町役場に就職し2003年に職員を辞して町議会議員となり2011年から2年間は全国最年少となる35歳で町議会議長を務めているので議会への根回しなども周到に行ったと想像するが、それにしても決断の早さには驚かされる。
 
 自動運転電気バスはフランス製のNAVYA ARMAで3台が導入されている。事業費は2020年4月から2025年3月までの5年間で約5.2億円であり、1/2は地方創生推進交付金が充当されるが残りは境町の一般会計から持ち出しとなる。しかしながら先に述べたふるさと納税による収入が資金の後押しとなっており、逆に全国に先駆けて自動運転電気バスを導入したことで運行導入の翌年には視察が年間百件を越えるように注目を集め、それが納税額の増加にも繋がっているという良いスパイラルも発生しているようだ。
 
 ともあれ前段が長くなったが現物を年内に見に行こうと思っていたモチベーションが高まり袖ケ浦市議会の傍聴の翌日となる17日に現地に行った。事前に運行ダイヤをネットで調べてステーションとなる道の駅さかいを10:20に出発するバスが有ることを確認しておいたので現地到着を10時と考え木更津を出発した。
 
 
 
 道の駅に到着すると黒いスーツを着た4人ほどの男性が居て同業者で視察に来ているのかと思ったが気のせいだったようだ。バス停は駐車場の反対側の「茶蔵」というレストランの横にあった。なお、この建築物の設計は隈賢吾事務所である。バス停に10分前に着くが誰も待っておらず車も開いていなかった。5分前にオペレーターの女性が現れバスを空けてくれたが出発までに乗ったのは私一人であった。既に運行開始して3年が経過しているので珍しさも減っているのかもしれない。
 
 
 
 車両は前方の椅子に4席、後方の椅子の一つがオペレーター席なので3席、進行方向右手となるドア正面に収納式椅子が3席なので乗客の定員は10人である。オペレーターは安全監理のために同乗しており、自動運転はLEVEL2である。何かあったときには手動で車を動かすのだろうと思って車内を見てもハンドルもブレーキもないので話を聞くとテレビゲームのコントローラーのようなものを見せてくれる。これで車を動かすのかと思うと微妙に心配になる。因みに定員11名なので中型の免許が必要であるが乗車料金が無料なので2種免許は不要だということである。オペレーターは発車ボタンを押すのが仕事で基本的に車が周辺の状況を判断して運行されている。運行開始以来の事故は駐車場に停車中に追突されたもらい事故が有っただけで自動運転中に事故は発生していないということである。
 
 
 
 運行ルートは住宅地の立ち並ぶ、木更津で云えば田面通りのような歩道のない道路である。最高速度20km/hrなので幹線道路だと渋滞の元に成るので路地に近い路線が選ばれたようである。それでも後ろに並んでしまった車のためバス停を細かく設定し、バス停に人が居なくても停車して追い抜きをさせるような配慮がされていた。地域の理解も進み速度が遅いことにともなう渋滞発生に対する苦情は無くなったようだ。
 乗客が私しか居なかったので普段の利用状況を聞くと、お年寄りがスーパーに買い物に行くのによく利用されており週末には観光客が乗ることも多いということである。わたしもその観光客の一人のようなものである。好評なので当初は高速バスターミナルと道の駅を結ぶ南北幹線が主であったが路線数を増やしていく計画もあるようだ。
 境町には鉄道が乗り入れておらず、都心に通勤通学する人は東北本線か東武伊勢崎線の駅まで通っているものと推察する。従って通勤通学のような朝の大量輸送が必要ないのでこの程度の大きさの車両で間に合うが、木更津市での展開を考えると清見台線のような幹線には使用できない。塩尻での実証実験は中型バスを使用しているようなのでそちらの状況も気になる。
 
 地方の田舎町が始めた取組に注目が集まることで誇りを取り戻し、シティプライドの醸成が行政参加を促すという効果も生じているように聞く。平均して毎年5千万円以上の予算を投じながら受益者負担で料金を取ろうという意見にも成っていないことにも尊敬する。2025年には残業規制もあって大幅な運転手不足が生じるように言われている中、先手を打つことは重要だと思う。個人的には最も大量輸送を行っている金田羽田間に連接バスを導入して運転手一人辺りの輸送量を増やすべきだと考えているが、技術の進化によって高速道路を自動運転することが可能になる時代も近いかも知れない。時代の趨勢を見続けなければと思う。