駅前庁舎を考える
2023/11/23記
 2011年3月11日に発生した東日本大震災は当時潮見にあった木更津市役所にも数多くの亀裂を発生させ、それまで私が庁舎の健全性を調べるべきだという質問に対して先送りしてきたことを見直し健全化の検討を行うに至った。結果として大地震での倒壊の可能性が指摘され市は庁舎の建て替えに向けた検討を開始した。議会もそれを受けて11年前の平成24年6月議会で議員全員による市庁舎整備特別委員会を設け議論を重ねてきた。
 当時の水越市長の元で新庁舎建設の話が進み、2014年3月末から市政を引き継いだ渡辺市長の元で施行業者の募集を行ったところ東京オリンピックを前にした建設需要の高騰で市の提示額との間に埋めがたい差が発生し、5月27日の特別委員会で10年間は新庁舎の建設を先送りすることが決まった。8月18日の委員会で分散移転の方針が示され、現在の状況が進む中、仮移転後も自前の庁舎を保有せず分庁したままでそれぞれに新しい庁舎を民間に建設して貰い、それを長期に借用するという方向性が示され、朝日ではイオンタウン鰍ェ、駅前では叶V昭和がそれぞれ新しいビルを建設することで今年のGWまで順調に話が進んでいた。
 
 話が急展開を見せたのは駅前の立体駐車場を閉鎖して解体に向けて具体的な計画が進められようとするなかで当初は計画に同意していた地権者との条件交渉が破綻し新昭和が事業化を白紙に戻すことを発表したのが5月19日のことで、それからの半年間の模索を経て昨日の特別委員会で朝日庁舎は当初計画通りに賃貸として駅前庁舎は自前建設にすることが発表された。
 自前建設とする場合は初期投資額が多く、同時期に吾妻地区でホールや図書館の複合文化ホールを建設し、金田でも小中学校の建て替えを行う中で中長期に渡る市政への影響は大きい。それを整理するため委員会には企画課と財政課が同席して検討結果の報告もあった。市債は令和9年度に76億円も発行せねば成らず財政調整基金も現在の55億円が令和10年度には18億円まで減少する見込みであるが、長期的な視点で考えると特段の異常事態では無い事が示された。
 
 方針が決まったので今後は新庁舎に向けた動きが加速される。双方の庁舎について簡単に整理したものが下表である。
項目 朝日庁舎 駅前庁舎
所有者 イオンタウン 木更津市
利用形態 賃貸借[15年※] 自己所有
施設規模 約8,000u 7,478u
50年間費用※ 約193億1千万円 約146億9千万円
設計期間 R05/12〜R06/07 R06/03〜R07/12
駐車場解体 - R07/07〜R08/09
庁舎建設 R06/08〜R08/01 R08/07〜R10/01
供用開始 R08/04 R10/04
 
 朝日庁舎は15年の契約を基本としているが比較計算するために同じフロアを50年間賃借し続ける金額として計算している。駅前庁舎で市役所が占用する面積は約4,000uであるが、市民交流プラザや店舗部分の面積も有り施設規模は大きくなっている。その市民交流プラザの内装に要する費用と指定管理の費用は50年間費用に含んでいない。
 
 委員会では分庁を止めて潮見庁舎跡地に約18,000uの自己所有ビルを建設する場合の費用も示された。上記の50年間費用の合計が約340億円である事に対し自己所有ビルを建設したときには約350億円ほどが必要となり、結果としては安い選択であることも確認された。自己所有ビルが高額になるのは共有部分の面積として約6,000uを見込んでいるためで、上記の施設規模の合計のように16,000u以内に収めれば安くなることは明かである。
 それでも百億円を超える建設費が負担できないこと、将来的な人口減少やAIの発達による市役所機能の縮小を考慮すると現在段階での建設は過大投資となること等で潮見庁舎の跡地に建設することは得策ではないと私は判断する。上表で朝日庁舎の費用が同一面積を賃借する前提で計算しているが、段階的な賃借面積の縮小が可能であることを考えると良い判断だと思うのだ。
 
 委員会協議会で会派代表の吾津議員に質問して貰ったが、折角駅前庁舎を自己ビルにするという判断をしたのであれば、財政の厳しさも承知の上で50年後にも評価される「オーガニックなビル」の建設も目指すべきであると思う。建物も5階建てに収め、8千uを下回る規模であるからオーガニック対応の追加額は巨額には成らないと思うのである。カーボンオフセットを唱えるなら時代の先端に立つCLT造(木造)のビルとするのも魅力である。専門が建築である渡辺市長には木更津市を象徴する市役所を建設する自由を与えたいと思う。
 
 協議会では来年1月下旬に全市民を対象とした住民説明会の開催を考えていると説明があったが、年末年始の様々な会合で我々議員も多くの市民から説明を求められることになるだろう。そんな自分自身に向けて今回の記載をしている次第である。