富士山という商品
2026/08/12記
 昨年の春、研修に合わせて京都におけるインバウンドの状況を見学に行ったが、富士山も酷いことになっていることは耳にしていた。下界と同じ状況だと考え登山装備のないまま薄着で登り低体温症や転倒等による怪我で救出される人(外国人だけでなく日本人も多数)が続出し、救出に関する警察や消防の出動費用を賄い噴火や雷からの避難シェルターの設置を進め、更に料金抵抗による入山者の抑制を目指して入山料の徴収が昨年から始まり2年目になる。山梨県側では最初は協力金の形であったが条例を整備して義務化したのが昨年だったと記憶している。
 
 入山者の総量を抑制し静寂で快適な富士山を目指すとも聞くが、規制が進むことによって富士登山が貴重品となり商品化されてきたように感じる。私は2002年に吉田口から、2011年には富士宮口から登山したが、山小屋を予約できなくて苦労する等という話はなかったし周りからも聞こえてこなかった。その代わり明らかに人数オーバーでも詰め込み、最悪の環境で寝られなかったという話はよく聞いていた。
 山小屋に人数以上に詰め込ませないために全てインターネット予約にしてから生じたことは、予約枠を旅行業者が抑えてしまい、バスツアーと併せて販売するという方法である。山小屋にとっては安定した収入となるため従業員の雇用は楽になるし寝具やトイレ等の環境整備にも投資しやすくなる利点は有るが、個人の登山者が閉め出される形になり、富士山は他の山と比べると異物化が進んでいるように思われる。
 
 今回の家族での富士登山にあたり、インターネットでツアーを探し、幾つかを比較して携帯電話に公告の多く出ている大阪の観光会社に申し込んだ。当日のツアーは申し込んだ会社ではなく「サンシャインツアー」という登山ツアー大手が主催しており、申し込んだ会社の名前は3日間とも聞くことはなくチケットにも表示されてはいなかった。
 富士市にある日帰り温泉が登山バスの基地となり、各所から運ばれてきた登山者はここでレンタル品を借りて仮眠した後で朝食を摂り、それぞれの登山口に向けて別のバスで運ばれると云う合理的な運用であることには感心するし、旅行費用を抑制するため食事を簡素にすることは理解できるが富士市街に居ながら北アルプスの山小屋より貧弱な朝御飯には驚かされた。
 
 
 登山ツアーはガイドのあるものと無いものがあり、登山経験の多い私は妻子のペースに合わせアドバイスしながら登るため、前回などと同様に私がガイドでもあるから付けなかったが、ネットで見ると中には酷いガイドもいるようである。なお、良いガイドが少人数の世話をするツアーは海外旅行に行くほどに高額である。
 高額でも日本まで旅行に来られる外国人には安価なようで、欧米系だけでなく東南アジアを含むアジアの多くの国から富士山を目指しており、判るだけで英語・中国語・韓国語・タイ語らしいものは聞こえていたし髪の毛を隠した女性が登山しているのはイスラム圏のインドネシアかマレーシアかも知れない。英語でない欧米人が話していたのはスペイン語かイタリア語かも知れないが聞き取ることは出来なかった。
 
 市民マラソンにランニング経験が少ない選手が参加するように、明らかに登山経験が少ない者は外国人だけでなく日本人にも多数居た。登山口に向かうバスの中で登り優先ですよ、と解りきったことを説明していると思ったが我が物顔で下山して登山中の者を停める者なども多く、足取りも危なく、そもそも登山靴でない者も多くて商品として富士山を扱うなら入山料の確認をする人などの関係者にはしっかりして欲しいと思った。なお、私は快適な山小屋環境のためビーチサンダルを持ち上げ小屋の中ではサンダルで居るのだが、妻は「サンダルで登っている人が居るので指導できないのかしら」という大きな誤解に基づく話を聞いたらしい。
 
 個人的には静岡県が業者に依頼して作成させた入山料を徴収するためのアプリ「静岡県FUJI NAVI」も無駄に容量が多く出来が悪くて閉口した。GooglePlayでの評価は5点満点中の2.0点である。安全のためと入山者の統計を取るためと思われる個人情報の入力項目が多く、高山病や気象に関して事前学習してクイズに答えられないと入山料を受け付けなくなっている点は少し評価するが、富士山が世界遺産に選ばれた理由もクイズに入れるのは大きなお世話だと思う。それをPRするより過去の富士山の噴火周期に比べ現在は噴火しないことが不思議なほど間が空いているという不都合な事実を伝えてもらいたいと思う。ともあれ携帯に無駄なアプリを置きたくないので下山前にアンインストールしてしまった。
 
 山小屋も設備は若干良くなったし前回と同様に宿泊した萬年雪山荘のスタッフは親切であったが、ブルドーザーを改良した車両での大量輸送が可能なのに、ヘリコプター輸送をしている北アルプスより食料は貧弱で、商品は缶ビール800円./缶酎ハイ700円等と高い。せめて何時も夕食はカレーライスと決まっているのだから量の少ないライスのお代わりぐらい認めて欲しいとは何回も富士山に登っている知人が言っていたが同感である。
 
 
 萬年雪山荘は250人定員の大規模な小屋だから朝食も大量に作らねば成らず簡単になることは理解できるが質素にしなくても良いのにと思う。南アルプスに両俣小屋という30人規模の小さな小屋がある。古い話であるが2002年に宿泊したときには夕食に鰻が出て驚かされたものである。北アルプスの白馬山荘のように希望者にはフランス料理を出せとは言わないが富士山の小屋は圧倒的に遅れている状況を改選して欲しいと願うものである。ただし多言語を話せるスタッフ(留学生のアルバイト?)を雇っていることや開設期間が極めて短いことなどを考慮すると宿泊料が高額になることも理解できないわけではない。
 
 富士市でも正反対になる富士宮口を含めた大量の下山者を富士市に集めて一括して処理するため、昼食はバイキング形式となり、列に並んで見ている前で湯煎した食材をビニール袋から出していたし、お風呂に入ることを含めてチケットの確認はされなかった。そのような点は気にしている暇がないのだろう。
 
 
 このようなバスツアーで私が支払った料金は年齢に関係なく一人あたり28,980円と入山料の4,000円の合計32,980円という金額であるが意外に若い人の利用が多く、若い女性だけの利用者も多かった。ツアーを使えば富士宮から入って御殿場に降りるという利用法もあり、その点はマイカー登山より楽しそうだと思う。ツアーだから帰りのバスで麦酒でも飲めるかと思ったが酒類の自動販売機もなく、バスの中でこぼさないようにキャップ付きのペットボトル以外は持ち込みが禁止になっていることもガッカリするが、それは個人的な感想だろう。多くの人を輸送するためバスの中にトイレは設置されて居らず、途中でトイレ休憩を入れなくて済むようにアルコールを禁止することは合理的なのだ。
 
 一度は富士登山を。などとあおり富士山に人を集めながら規制を掛けているのも富士山という他の追随を許さない財産を持つ静岡県や山梨県の特権で、それが民間企業により商品化されることは仕方がないと思うが、個人登山者の自由になる分も残して欲しいと願いながら、このような愚痴を書いている次第である。